第46話 何を当たり前のことを
よしよし、これで聖剣使いの戦力が増えた。
左上に表示される4本のHPバーに頼もしさを感じながら、俺は戦線へと走る。
とりあえずメインアタッカーはブライエン、サブアタッカーでルシア、今リアはバッファーと考えると、足りないのはタンクか。
そうなると俺が回避盾をやるのがいいかな?ヘイトを稼ぐスキルは持ってないが回避でも稼げるし、ちょうどいいギミックがあるじゃんか。
5分経過はまだか?今リアにも合図しないといけないし、一先ずは生存優先で立ち回ればいいな。
「ブライエン!」
「加勢します!」
「寒風がここまで来ていた。やっと目覚めたようだな」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「詫びはここで返せ」
「はい!」
「燃えてるところ悪いけど、しばらく攻撃を受けないように立ち回ってくれ。2人が攻撃に集中できるように準備する」
「……水を差してくれるわね」
早く力を試したいルシアが不満げな顔をするが俺は無視して魔王へと接近する。
『
『
『
魔王は近寄ってきた獲物を食らおうと攻撃するが、まだ攻撃パターンは変わっていない。故に対処は簡単に済むが、予想通り体力が多いな。
ただ、ブライエン達に言った手前、俺も気持ち1步引いて攻撃を加えるか。
殺到する馬、狼、鳥の口。掻い潜って魔王の4本の脚を蹴っていく。正直称号が『平行世界の記憶を持つ者』では蹴りでもカスダメしか発生しないが、まあ安全第一だ。
地面が踏み鳴らされれば、その波に合わせて離脱。噛み付きと突き刺しは冷静に避ける。
……そろそろかな?
俺は魔王から少しずつ距離を取っていく。背を見せずにジリジリと稼いだら一転、一目散に走る。そうすれば──
『『『
「今だブライエン!ルシア!リア!」
30m離れることで行動を誘発。魔王のヘイトが爆上がりし、俺へ突撃をしてくる。
リアが演奏を開始する。『マルクトの大河』は実は、1サイクルが2分半ちょうどなのだ、気付いた俺はこれがタイマーに使えると思った。
横から巨大な炎の玉と数多の氷柱が魔王を直撃するが、魔王はややよろめくのみで勢いを落とさない。
まあ目で追えなくても、これだけ直線的で狙いが分かりやすいなら、横に全力疾走すればいいのだが。演奏でスタミナが強化されて動きやすい。そして誘導がしやすい。
何度か逃げる避けるのやり取りを繰り返し、誘導する。
直ぐに停止できない魔王は木々を薙ぎ払いながらも足を止める。そこへ──
「かアァッ!」
「はあぁぁ!」
回り込んでいたブライエンの大振りの一撃が、ルシアのトップスピードの連撃が魔王に命中し、左前脚をついに砕いた。
『『『■■■■■■■■■■■■■■■!!!』』』
『■■■■■■■■!? ■■■■!?』
『■■■■!? ■■!? ■■■■■■!?』
『■■■■■!? ■■■!?』
『『『■■■■■■■■■■■■■■■!!!』』』
魔王が絶叫、絶叫、絶叫の三重奏。
その様子に、俺はいけると確信した。してしまった。
ラスボス戦が、そんなに甘いはずがないのに。
『
『
『
『
『
『
『『『
『
『
『
この場の全員が、直感的に何かが起こると悟り警戒する。しかしその程度の覚悟では足りなかった。
狼が砕けた脚を噛みちぎる。鳥が狼の首を切断する。馬が鳥の首を噛み砕く。脚が、狼と鳥の頭が落ちる。
それを馬が喰らい始めた。
突然始まった惨劇に追い付けずにいる間に変化は進む。
魔王の体が膨張する。耐えきれず裂けた皮膚からは紫色の亀裂が覗く。先のなくなった両腕と脚は、さらに凶悪な見た目に再生。
狼の視線が俺を射抜く。
『アオオォォオォオオオォォォォンンン!』
遠吠え。その音だけで大気は揺れ、猛烈な風が俺たちを押す。
────────────────
『被食の烙印』が消去されました。
『猟犬の執念』が付与されました。
────────────────
新たなウィンドウを確認する間もなく状況が動く。
魔王が大地を踏み鳴らし、跳躍。
「ッ、ブライエン庇え!」
それだけ叫ぶと俺は集中する。図体が大きくなろうがやることは変わらない、着地の瞬間を狙って跳んで攻撃してしまえばいい。
轟音と陥没と共に魔王が着地する。タイミングはばっちり、俺は再び高く跳躍して──
鳥が、俺を見ていた。
『コケエエェェエエェエェェェエ!』
鳥が鳴き声を上げた、と思えば。
気付けば、狼の頭が目の前にあった。
「は、がっ!?」
慌てて両腕を前にクロスしてガードするが、宙にいた俺はそのまま後ろにぶっ飛ばされる。
『ヒィィヒヒイィィィイイィン!』
魔王が疾走。直ぐに吹き飛ばされる俺に追い付き、狼の頭を俺に振り下ろした。
ズルい?何が?初見殺しの攻撃?何を当たり前のことを?
相手にしているのは魔王だ、初見殺しなんてあって当然、警戒して当然だろう?それを怠ったんだから当然だろう?
俺はワルザー川へと叩き付けられた。水柱が高く、高く登る。これにて俺のHPは尽き──
「にゃああああああ、痛いにょにゃあああああああ!?」
尽きて、いなかった。
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