第44話 最悪の不意討ちのような
~Side ルシア~
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「────」
木々よりも高い視点から、魔王が私達を睥睨していた。
声すらも出ない。体がピクリとも動かせない。目が離せない。頭が全ての感覚を受け付けない。
拾わなきゃ 何を? 足下の どうするの? 抗わなきゃ 何から? 私は──
「ぐうぅぁあああ!」
「援護します!『
雄叫びを上げて魔王へと突撃するブライエン様。暗い演奏を始めるリア。演奏の効果で脱力感を覚えるが、それは私たちよりも魔王の方に影響が大きいようで、演奏と同時に魔王の体がふらつく。
「はあぁぁ!」
『『『
そこへブライエン様が炎をまとった斬撃を浴びせます。魔王は苦しんでいるようで、意外といけるのかと期待が首をもたげて──
直後、魔王に薙ぎ払われ、木々を圧し折りながら吹き飛ぶブライエン様に足が竦む。
幸いブライエン様は炎の中から復活するし、黒煙を上げる傷が塞がる様子はないけれど、たった1度の
今度は魔王が動く。バチバチと紫の雷を纏って、人の胸板のような体を反らして──
『『『
「ッッッッッッ!?」
酷い、まるで裸で雪山に放り出されたような悪寒が全身を貫く。私はそこで限界だった。
トサリと、その場に座り込んでしまう。
これが、魔王?神話の、魔王?無理、無理よこんなの、人にどうこうできる相手じゃ──
「チッ」
ふと、舌打ちの音を耳が拾った。
いつの間にか隣まで戻ってきていたブライエン様のだ。ブライエン様は聖剣を正面に構えて口を開く。
「『ΦθολατεΧΡυλε──」
「!?ダメです!」
「ッ」
何かを唱え始めたブライエン様を、慌てて止めたリア。
「何故止める!」
「聖剣の解放はしてはいけません!誰も死なせないために、天使様はこの3年間を準備してきたんです!」
「ならばこの場をどうするつもりだ!ッ!」
突然、ブライエン様に襟首を掴まれます。そしてそのまま引きずられるように動かれると、私たちがいたところを魔王が疾走していった。
──あ、聖剣が、森の中へ──
魔王に蹴り飛ばされ吹き飛ぶ聖剣を、私は視線で追うことしかできない。
「直ぐに天使様が来ます!まずは私たちは、それまで耐えればいいんです!」
「ひ弱な天使が1人加わってどうにかなる状況ではないぞ!?」
「お願いします!どうか信じてください!」
「──少しだけだ!遅ければ勝手に動く!」
「ありがとうございます!」
「はあぁぁぁぁ!」
どうして?ブライエン様も、それよりもリアも、どうして立ち向かえるの?
「ルシア・オリーヴ!」
「っ」
「戦えないのなら立ち去れ!」
それはブライエン様からの戦力外通告。
……仕方、ないわよね?だって戦えないのだもの。私は悪くないわよね?聖剣の能力も使えないような弱い騎士は結局、英雄譚のような活躍なんて、所詮ただの、分不相応な夢で──
そう考えたらどうしてか体が軽くなった。どうしてか目が熱くて、視界が歪んでいるけれど、私はヨロヨロと立ち上がって、魔王に背を向けて走り出した。
否、距離を、取ってしまった。
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『『『
何でだろ、悪い予感はどうしてこうも当たるんだろ。
すごい振動が足を掬って、振り向けばすぐそこに、魔王の口が迫ってきていた。
……その時がとても遅く感じる。あれ?私ってこんなに速かった?いや違う、これが走馬灯っていうものなのかしら。
そっか、私、ここで死んじゃうんだ。魔王に食べられたら、私は死後の世界に行けるのかしら?
あーあ、最期まで一人前の聖剣使いになれなかったなぁ。お父様、お母様、ごめんなさい。ルシアは責任を果たせませんでした。
シャルロッテお姉様、エミリア、もっと仲良くしたかったなぁ。
──魔王の歯がしっかり見える。糸を引く涎が見える。
これ以上は何も見たくなくて、私は目を閉じた。
「あっぶねぇ!?」
ぐいっと強い力で引っ張られた。続いて誰かの焦った声と、ズダダダという不思議な音。そして、
『『『
魔王の悲鳴。
何が起きたか分からなくて目を開ければ、そこには──
「怪我は、ないな!ならセーフ!」
頭上には天使の証たる光輪を戴き、その手には美しく光る細身な聖剣を握り、その目は悪戯気に歪んだ幼子。
「あ、落ちてたから聖剣借りてるんで、よろ!」
言葉は軽薄。しかし私はそこに、英雄の姿を見た。
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