第15話 プレイヤーという体質

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ここから先は来年の果実香る初秋の月ヴァンデミエールまで1季節に1日のみの行動となります。

1日を終了しますか?


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無事大盛況で終わった収穫祭の夜、俺の目の前にはそんなウィンドウが表示されていた。

収穫祭のステージはのど自慢の演奏バージョンと言うべきか、色々な人が代わる代わる己の腕を見せつけていた。

見ている分にはとても楽しめる内容だったろう、披露される演目のほとんどが『マルクトの大河』でなければ。


最初は俺もしっかり聞いていたのだが、段々と同じ曲調に飽きてきてつい──いやいや、ただリラックスしていただけですとも。

大トリの幼女リアの演奏はキチンと聴いていたよ?座って前足でリュートを奏でるイーゼル、二足歩行で立ち上がって犬サイズのティンパニを叩くハンド、絶対不可能だろってくらい器用に猫サイズのピアノを弾くカッツェーリラ、胸に星のバッジを付けて堂々と歌ったハンス、そして今リアを彷彿させるようにキレイにヴァイオリンをこなした幼女リア。


これで『ブレーメンの音楽隊』の名前と制作者であり、父のブライエンの卒業試験をクリアしたゲルマンの名前は大きく広まった。

そして同時にビネガー男爵領の滅亡への導火線に火がついた状況なわけだが……


「やっべ、何が原因かわからない……」


絶対何かが動いたはずなのに、それがわからない。

いや、弱音を吐いても仕方ない。とにかく見知ったことをまとめないと。


「まず最初は──」


初日。俺が今リアと出会ったタイミング。

あの時の今リアはネガティブの塊だった。今でもたまーに出てくるけど前より深刻じゃないし、そもそもあまりそういう仕草は見なくなったな。

少なくなったのはどのタイミングだっけ?あ、2日目の話の後か?

……もしかして、今のが素で、ネガティブな態度って無理してたのか?処世術的な?


「ま、まあ今が素なら別にいいや」


2日目。今リア地雷疑惑が振り払えていなかった時期。

違う、今リアめっちゃ物知りだなって思った時期。あと何気に初めてGDOでパーティを組んで、音楽で援護してもらった。

今リアは謙遜していたけど、通常攻撃にも属性を付与するあの演奏バフは普通に強力で有用だった。

これがクエスト用NPCの用意された性能だと考えると、最終局面はやはり難易度は高いものだと予想できる。

……あ、他に何が演奏できるか聞いておいた方が良いかもな。


「そんでビネガー男爵領に来てからは──」


このクエストのベースが『ブレーメンの音楽隊』であることを知った。

ログアウトした時に『ブレーメンの音楽隊』をネット検索して改めて登場人物を洗ったけど、やっぱり「ラートリア」も「ゲルマン」も「ビネガー男爵」もなかった。

出てきたのは動物たちと、一応その元飼い主と、あとは小屋を根城にしていた山賊。

……どこかで出くわすことはあるのだろうか、山賊。


「……あれ?こんなもんか?」


細かい所が思い出せていない気がする……


「……ああ、四大公爵とかカバラ侯爵とかか」


過去に戻った以上、今の時間軸はこれらが存在する時間軸だ、情報を集めてみてもいいだろう。

──これ以上は思い出せない。この日の活動はここまでにしよう。


俺はウィンドウの『はい』を選択して、ベッドに潜り込んだ。




──体感ではほんの十数秒の暗転。しかしたったそれだけで体は長く寝たようにすっきりして俺は朝を迎えた。


そして何故か目の前にあった今リアと視線がぶつかった。


「あ……」

「あ、おはようリア」


俺は努めて冷静に挨拶した、はずだ。

バッ、と顔が遠ざかったかと思えば、今リアは部屋から走り去ってしまった。

……どうしたのだろうか。


「──ん?バケツ?」


追いかけようとベッドに腰掛けると、すぐ下に水の入ったバケツとタオルが用意されているのを発見。

首を傾げていると、ドタドタという足音が近付いてきて、扉が勢いよく開けられた。


「えっと、どうしたゲルマン?」


音の主はゲルマンだった。その後ろには今リアとエレーナさんもいる。


「てん、んん、ドットレ、ス、体は大丈夫なんですか?」

「体?」


言われて自分のアバターを確認する。見下ろすだけじゃなくて、鏡の方も見てみる。

……うん、何度見てもキャラ濃いな、これ。


「えと、俺、怪我でもしたっけ?」


心配されるような怪我の記憶はないし、残らないはずなのだが。

と言えば、ゲルマンが溜め息。


「……おいリアさん、こいつ気付いてねぇぞ」

「?」

「お前、3か月寝てたくせに元気すぎるだろ……」


3か月寝てた……って、あ。

季節に1日のみの行動ってそういう?


「あ、えっと、なんというか、そういう体質?みたいな?」

「なんだその体質……」

「何か薬とかないのかしら?」


エレーナさんの疑問に俺は苦笑い。

体質と言ったが、間違ってはいないと思う。クエストに限らずプレイヤーがログアウトしてもGDOのアバターはその場に残り続けるらしいから、長くインしないと眠り続けるアバターが出来上がるわけだ。


「ないと思いますよ、薬」


というか、あったら困る。

……あったらどうなるんだろ?ログアウト不可?アバターが勝手に動き出す?


「よくあるのか?」

「たまによくある」

「何だそりゃ」

「そう言われても」


たまによくある、これ程ぴったりの言葉はないと思うが。


「まあ、ゲルマン。てん、ドットレ、スが元気そうで良かったじゃないですか」

「まあ、リアさんがそう言うなら」


おい、俺のことなのに今リアの言葉に従うってどういうことだ。


「あ、ドレスちゃんのご飯も用意しないとね」


とエレーナさんは撤退。もう自分の中で折り合いをつけたのだろう、ゲルマンも母親を追って出ていく。


「……それで、天使様」

「呼び方戻ってんぞリア」

「あ、すみません。えと、ドットレス様。長く眠ることは増えそうですか?」

「……そうだな、来年の収穫祭まではこうなるかも」

「そうですか。天使様って不思議な体質なんですね」

「そうね、俺も改めてそう思ってる」


プレイヤーの存在も違和感なく世界観に組み込むクリエイターの工夫には本当に脱帽だ。

……あ、そうだ。


「ところでこのバケツとタオルってリアが?」

「あ、はい。畏れ多いですが、私がドットレス様の体を拭かせてもらいました」

「そっか、ありがとね」

「いえいえ……ここは感想を言うべきなのでしょうか?」

「恥ずかしいから止めて」




朝飯を食べて、さてと、またゲルマンの手伝いをしようかと思っていたら今リアから相談を持ちかけられた。


「何か私にしてほしいことはありますでしょうか?」

「してほしいこと?」

「はい。ドットレス様がたまにしか目覚められないとなりますと、私の方で準備できるのがあるならお手伝いさせていただきたく」


なるほど、プレイヤーがいない期間に行動を指示しておけばNPCがやっておいてくれるのか。鍛錬とか、素材集めとか。

ありがたいけど……


「大丈夫?ここの手伝いもあるでしょ?」

「それなら心配不要です。ここの1番の繁忙期は収穫祭の前後です。今はもう落ち着いていますから、私も余裕があります」

「そうなの?」

「はい。それとドットレス様が目覚める日はお休みをいただきます」


クエストだからと言えば当然だが、都合よく感じてしまう……

でも、こういうところでお願いしないとクリアできないんだろうな……


「……わかった。そしたら2つお願いできる?」

「なんなりと」

「1つは情報収集。些細なことでもいいから、俺が寝ている間にあったことをまとめておいてくれると助かる」

「もちろんです。どういった情報がいいとかはありますか?」

「そうだな……四大公爵とか、カバラ侯爵とか、貴族関係かな」

「貴族関係、ですか?」


首を傾げる今リア。どういうのを想定していたんだろ?


「そう。前にリアが話してただろ?元々はカバラ侯爵領への旅の途中だったって」

「ああ、最初の時ですね」

「それってどうして?」

「カバラ侯爵領には広大な穀倉地があるそうなんです。しかも品質も特上らしくて」

「ああ、それも出会った時に聞いたっけ。つまり観光?」

「うーん……そう、なんでしょうか?」

「あ、やっぱり引っかかるんだ」

「やっぱり?」

「いや、俺も勘だけど、あの時のリアって朦朧してたろ?その時にポロッと出てきた固有名詞って、覚えてなくても何か繋がってたりするんだよ」


まあ、ゲーマーとして、そしてクリエイターとしてのメタ視点だが。


「なるほど……とりあえず貴族関連で集めてみます」

「あ、幼女リアも含めてな」

「わかりました──もう1つは?」

「もう1つはリア自身のパワーアップだな。マナー違反かわからないけど、リアが演奏できる曲ってどれくらいある?」


俺がそう訊くと、今リアは一瞬キョトンとした後、


「えと、それは楽曲数ではなく、支援演奏の数ということですよね?」

「支援演奏って言葉はわからないけど、とりあえず戦闘で使えるやつかな」

「それなら、えっと──」


今リアが挙げたのは3つ。


祝福の調キャロル』。これは木魚でも演奏していた曲だ。

味方1人に任意の属性を付与して攻防どちらも補助するものである。

と言っても、全ての属性を付与できるわけじゃないそうだ。


2つ目は『悲哀の調エレジー』。範囲内の全ての聴衆の全てのステータスを減弱させる曲だ。これは知性関係なく全てのエネミーにも効果があるらしい。


ちなみに聴衆とは敵も味方も含んでいる。その場にいる、音楽を理解できる知性があるもの全てに効果があるらしい。対人戦では難しいな。


そして──


「3つ目はペル──」


3つ目を言おうとした今リアだったが、その口が止まった。


「──リア?」

「あ、いえ、勘違いしていました。戦闘で使えるのはこの2つだけですね」

「……そっか」


まあ言いたくなければ仕方ない。


「んん、それで、そうだな……じゃあ集団避難で使えそうな曲って知らない?いざとなったらリアに男爵領の住人の避難を手伝ってもらおうかなって思ってるんだけど」

「集団避難に使えそうな曲、ですか……」


頭を捻る今リア。


「うーん……大移動の災害スタンピードから逃げるためのものですよね?」

「そのつもり」

「それなら敏捷を上げる……いえ、それは一時的ですね。それならスタミナ回復の……」

「その2つの効果があるものって無理なのか?」

「それは──あ、混成の調メドレーがありますが、1年以内にとなると私にはまだ難しいかと……最低でも2、ではなく3つの曲の習得になりますから」

「あー、そうだな。そうなると、スタミナ回復の方がいいかな。長く逃げられるってことで」

「わかりました」


これで、今リアにお願いすることは終わり。


「それで、ドットレス様はどうするんですか?」

「探索もするけど……俺も強くならないとな」

「既に強いように思えますが?」

「いやいや全然だよ」


ステータスを表示する。


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名前:ドットレス(Lv:0)

職業:音楽家志し(Lv:3/20 ☆0)

所属:第98開拓地(Lv:0)

称号:準神天使

種族:小魔族

出生:元公爵家

HP体力:135/135〈150-10%〉

MP魔力:20/20

VIT生命力:13

STR攻撃力:10

DEF防御力:9〈10-10%〉

INT制御力:13

MNT抵抗力:9〈10-10%〉

AGI敏捷度:11〈10+10%〉

DEX器用度:14〈13+10%〉

LUC???:1


~技能~

『小魔族』(2/2)

『元公爵家』(1/1)

『被虐体質』(1/1)

『放浪する者』(1/1)

『隷属する者』(1/1)

『親なき子』(1/1)

『秘められた可能性』(1/1)

『秘められた可能性』(1/1)

『秘められた可能性』(1/1)

『秘められた可能性』(1/1)

『観察』(2/10)

『軽業』(1/10)

『跳躍』(1/10)


~称号常時効果~

兎系統のエネミーからのヘイトにプラス補正(極小)

一部NPCの好感度判定にマイナス補正(極小)

デスペナルティ軽減(極小)

リスポーン待機時間減少(中)、被蘇生効果減少(中)×4


~装備~

・ボロボロのシャツ(胸装備)∞/∞

・ボロボロの短パン(腰装備)∞/∞


残りSP:3


所持金 -384,200Cre


【※注意※】

・楽器を装備していないためアーツ経験値が取得できません。

・楽器を装備していないため一度に獲得できるジョブ経験値に上限があります。

・キャラレベルとジョブレベルの合計が20以上になるとデスペナルティが発生するようになります。

・拠点発展度が3以上になるとエネミーが拠点を襲撃できるようになります。

・現在表示している称号の上位互換の称号があります。


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いやぁ、弱い。ジョブレベルが上がって少しだけステータス伸びたけど、弱い。

でも強くなる方法は技能スキルを増やすか、ジョブレベルを上げるしかないから……


「とりあえず音楽家のレベル上げと、魔法の習得かな……俺一応魔族だし」

「なるほど……それでしたら私も多少の手伝いが出来そうです」


流石です今リアさん。


「ドットレス様はこれから周囲の探索もする必要がありますし、歩きながらでもできる方法をお教えします」


いやホント流石だわ今リアさん、いや様。心の中で崇めてもいいぐらい。


「候補は3つです。曲を1つと、魔法を2つですが……そうですね、曲をお教えいたします」

「よろしくお願いしますリア先生」


俺は背筋を正した。

……今リアが気まずそうな顔をしたので姿勢を崩した。すいません。

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