第7話 古典的好感度アップ手段
────────────────
『ラートリア Lv:?』がパーティに加わりました。
────────────────
そんなウィンドウが表示されると同時に、俺の視界の左上、HPとMPのバーがあるところの下に、新しいバーが追加される。
パーティ機能。こうしてプレイヤーとだけではなくNPCとも組めるのは他ゲーでもあるが、GDOのクオリティだとクエスト時以外でもお願いすれば加入してくれそうだよな?これは戦闘が苦手な初心者とか生産職とかへの補助なんだろうな。
「それで、えと、どちらから行きましょうか……?」
「そうだな……」
明るくなった今、改めて周りを見てみる。
切り株がある。そこを中心に1メートルぐらいの足元が草花になっており、そこから先は歩き難そうな低木に背丈の高い草の群生地。
溝というか切れ込みというか、獣道みたいなものは見当たらなかった。
「どの方向も同じっぽいなぁ……なら、あっちにしてみるか」
俺が一方向を指差すとラートリアが首を傾げた。
「な、何かありましたか?」
「いや、特別なものは何も。ただ昨晩ラートリアが出てきたのがあっちの方向だったし」
「ああ、えと、き、来た道を戻るというも、ものですか?」
「道があればいいけどね」
というわけで、俺とラートリアは草木を掻き分け第一歩を踏み出した。
想像以上にラートリアが有能だった。
「あ、アルバオドラの花が咲いてます」
「アルバオドラ?」
「あの樹に巻き付いてる蔓です。あの白い花の香りはリラックス効果があるんです。あとは兎除けにも使えますし」
「兎除け……やっぱそんなに多いのか、あの兎」
「まあ、森といえばテラレプスですから」
「あ、止まってください。メディカテアの葉です。薬草ですよ。煎じて飲めば回復できます」
「メディカテア……あ、メディックか」
「メディック……確か、神の言葉で薬という意味でしたか?確かにそこから名前が来てるかもしれないですね」
「神の言葉か……てかラートリア物知りだな」
「い、いえ、こんな程度、知っているにも入りません……出しゃばってごめんなさい……」
「戻った……でも前をラートリアに代わってから次々見つかるなぁ……」
「あ、これはもしや──ルブランベリーの実です!しかもこの数は『中身なし』!これはついてますよ!」
「そんなに興奮するなんて、レア物なのか?」
「あ、も、申し訳ありません!お見苦しいものを……すみませ──」
「ストップ。それで?」
「あ、えと、はい、ちょっとした高級品です。とても甘くて美味しいんですよ」
「へぇ。それで『中身なし』って?」
「こうして目立たず少しだけ生っているなら『中身なし』で安全に採取できるのですが──あ、あそこ見えますか?」
「あそこって──あれ、あれもその実か?レアな割になんだかどっさり実ってるが」
「あれが『中身あり』です。あれもルブランベリーの実であるのは確かなのですが、ソールラムスという魔物の罠でして……あ」
「あ、実を食べようとした兎が上から木魚みたいなやつに丸呑みにされたな……あれ?今兎って……」
「──それなりに歩きましたし、そろそろ休憩しませんか?」
「え?そんなに歩いたっけ?」
11時になるかならないかといったところで、ラートリアが提案するが……
「あう、ま、まだ疲れてませんでしたか?も、申し訳あ、ありません、差し出口を……」
「え、あ、ああいやいや!うん、そう言えば朝を食べてなかったしいいかもね!うん」
思ったそのままの返答でラートリアが凹み始めたので、慌ててフォロー。
実際【空腹】のスタックは200を超えており、食事をしても問題はないだろう。
なんとか復活させたラートリアから干し肉と、ルブランベリーの実をいくつかもらって囓る。
ラートリアは実を1つ1つ丁寧に、味わうように噛みしめており、心なしか表情が緩んでいた。
「なかなか水場って見つからないもんだなー」
「ルブランベリーが生っているなら、近いところに川があるはずなのですが……まあそれも飲めるかは別問題ですが」
「…………」
食事時でちょっと気が緩んだからだろうか、気になっていたことを尋ねてみた。
「ラートリアはさ、何でそんなに自信がないんだ?」
「うぇっ?」
「いやさ、さっきは謙遜してたけど、やっぱりラートリアって物知りだろ?いまのところ俺が役に立った場面は一瞬たりともなかったし。なのに何でそんなに卑屈になるのかって思ってさ」
「そ、そんな。天使様がいてくださるお陰で私も安心できていますし……」
「俺の有無は関係ないと思うんだけどなぁ……」
話を聞くにはまだ好感度が足りないかな?こうなったら──
「古典的好感度アップ手段、やっぱりプレゼントの出番だよな」
「はい?」
今でもプレゼントを貢げば貢ぐだけ好感度が上がるというシステムが存命のゲームがあるが、普通好みのものだとしても山ほど押し付けられたら好感度は下がると思うんだよね。あれか、やっぱりプレゼントって裏で売り払ゴホンゴホン、それはともかく。
「さっきの、えっと、ソー、ソー──木魚の魔物に付いてた実もルブランベリーなんだよな?」
「え、あ、はい、ソールラムスですね。一応本物らしいですが……まさか」
ラートリアの信じられないものを見るような顔に、俺はニヤリと返した。
ソールラムス。低木に擬態したそのエネミーは俺が目の前に立っていても襲ってくる気配はない。どうやらルブランベリーの房に手を出さない限りはずっと非アクティブのようだ。
俺が作ったエネミーではないので詳細は不明。ぶっつけでソロ討伐する必要がある。
幸いなことに、兎が丸呑みにされたときに気が付いたが、今のところは他のエネミーが俺を襲ってくる気配はないため、初戦闘のように終わりが見えない、数に擦り潰されることはないだろう、多分。
「ああ、あの、そ、ソールラムスはテラレプスのような『ケモノ』ではなく『マモノ』ですから、ほ、本当に厄介ですよ?奉納ギルドでも討伐推奨ランクはDですよ?そ、それでも本当にやるんですか?」
俺の後ろでラートリアが止めるように言ってくるんだけど、待って、気になることを増やさないで。
「んー、強いってことしかわからなかったけど、それでも取り敢えず一当てしてみるよ。最悪はラートリアを抱えて逃げるから」
「で、でも──」
「いいこと教えてあげるよ、ラートリア」
「はい?」
振り返らず、俺は告げる。
「
右足を半歩下げ、房に手を伸ばし──房の真上から現れた木魚のような本体の下顎を思い切り蹴り上げる。
『ッ!?』
一瞬の硬直。すぐに両脇から数本の枝が槍のように突き出されてくるが、軸足で地を蹴って後ろに転がることで回避。
しかしこの枝、ある程度の追跡能があるようで、折れ曲がって俺を追いかけてくる。すぐに幹を盾にしたが、トトトッと小気味よい音が響いた。枝は幹に深く刺さるが、幸い貫通はしてこなかった。
「硬いなぁ……」
直感的にあれは本体にしかダメージが通らないタイプだと見たが、その本体も蹴りがクリーンヒットしたにも関わらず、あまり効いていないように感じた。
ボヤいた直後、幹を迂回して襲い来る枝を躱し──
「ッ!?ハッ!」
ワンテンポ遅れて地中から飛び出した枝が頬を掠める。ほんの少し揺れた地面に気が付かなければ、今ので終わりだった。
「根っこも伸ばせる──いや、違うな。本体を枝の玉が包んでるのか。ウニかよ」
『@@@@ッ!』
「ぅおっ!?ウニ呼ばわりは嫌いですってか!?」
いや森のエネミーがウニを知っているとは思えないが、馬鹿にされたニュアンスは掴めたのだろう──いやそれはそれで分かるって凄いな。たかがモブエネミーにそこまでのAI積んでんのかよ。
そう驚愕とも不平とも取れる文句を呟く間にもエネミーの枝は前後左右から押し寄せてくる。
「上等、この程度の弾幕余裕だわ」
困難には笑みを見せ、もう1発本体に一撃食らわしてやろうかと考えていた、その時だった。
「──ん?」
草木が風に揺れる音。鳥の羽ばたく音。そして目の前の言葉にならない鳴き声。そこへさらに、秩序立った、ハイテンポな旋律が耳に届いた。
「戦闘BGM?こんな雑魚戦で?」
フルダイブVRはBGMの分野が未熟であるため、あるとしてもボス戦などの特別な場面でのみなのが普通なのだが──
「──あれ、これヴァイオリン?」
よくよく聞いてみればそのBGMはヴァイオリンで演奏されているとわかる。ミンストレルに叩き込まれたからな、間違いない。
そしてこの場でヴァイオリンと言えば──
「──『
背後から投げられた言葉、そして体からオーラのようなものが立ち上り始めるのを見て、俺は笑った。
「最高だよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます