第3話
「それでは、選手紹介です」
「赤コーナー、貯金額752円、住宅ローン残年数35年、587戦587勝無敗、バツ3」
「ぶっ飛んだ判決を出した裁判長第1位」
「一緒にスイーツを食べに行きたい裁判長第1位」
「梅干しが似合う裁判長第1位」
「命を狙われている裁判長第1位」
「トイレットペーパーの減りがどう考えても少な過ぎる裁判長第1位」
「満月の夜行方不明になる裁判長第1位」
「さいばーーーーーーーーーーーーーんちょっ!!」
傍聴席から歓声が上がる。
(なんだこれ?貯金額って何?しかも少なっ!かなり稼いでいるだろうに。しかも住宅ローン残年数いちいち言うの?残り35年って裁判長何歳?けっこう歳いっているよね?よくローン組めたな。さらに587戦って凄くね?!毎回こんなことして587戦も戦っているってこと?バツ3っていらなくね?勲章なの?そして、裁判長第1位ってろくなもの無いじゃん!なんだ一緒にスイーツを食べに行きたい裁判長第1位って。誰が投票したの?梅干しが似合うって何?どんなランキングだよ。トイレットペーパーに関しては何も言えねえよ!)
「青コーナー、貯金額2億3652万円、所有マンション3棟、123戦0勝123敗、未婚」
「不動産投資の極意」
「寝て暮らす方法」
「もう会社なんて行かなくていい。これに投資するだけ」
「他、著作多数」
「あさひーーーー(ピーーーーーーーー)!!」
(なんで名前にピー音入っているの?てか、こいつ凄い奴だったーー!!ろくでもない引きこもりでもなんでもないじゃん!!絶対親の年金になんて寄生してないじゃん!なんなのこれ?俺嵌められたの?みんなの噂に嵌められたの?そして貯金額すげーーー!!億超えているじゃん!さらに不動産投資の成功者だった!しかも本まで出しているし。なんだかわからないけど、恥ずかしい。すっかり見下していた自分が超恥ずかしい。しかも123戦も戦って0勝も驚きだが、何で123戦もしているの?てか何を争ったの?もしかして、裁判長と?)
あまりの衝撃に、目玉が飛び出すほど驚いて、左脳のお喋りが止まらない。
(なんで、こんな凄い奴が外で卑猥な言葉連呼しちゃったんだよ。まあ、誰でも間違いをしてしまうのはわかるけどさ。だからって卑猥な言葉はないよな、人の家の前で。なんか、俺も言い過ぎたと思うよ。何も知らないで感情のままに言ってしまったのは本当に申し訳ない。もうさあ、謝るから家に帰してほしい。賠償金きっちり払うから今すぐ家に帰してほしい。ここに座っているのが恥ずかしくて耐えられそうにないよ)
「それでは、レフェリーの紹介です」
蝶ネクタイのその言葉を合図に動いたのは、原告と行動を共にしていた女性だった。
「セミの抜け殻収集歴30年、バナナの黒い部分55回挑戦42度の失敗、家庭菜園がアブラムシで全滅8回、天井から動物が歩く音が絶えない、アキコーーーー、ナオミ・ユウーーーーーーコ!」
(ええーーー?!あの女性、レフェリーだったの?なんで原告と一緒だったの?お母さんかと思っていたわ。てか、何このしょーもない紹介内容。セミの抜け殻集めてどうするの?何か作品作っているの?バナナの黒い部分別に無理して食べなくて良くね?なんだよ42度の失敗って。いや家庭菜園のアブラムシ気持ちわかるけど。家やばくね?何か居るよね?同居しているよね?そして名前だけだよね?苗字ないよね?しかも、どれ、名前?アキコなの?ナオミなの?ユウコなの?なんなのこれ?)
「それでは両選手より一言頂きます」
まずは、裁判長がマイクを持って傍聴席に向かって語り始めた。
「ピーーーーーーーーー!」
(放送禁止用語全開だったー!!!犯人お前か!原告を洗脳しているのはお前かーーー!!)
なぜか傍聴席から拍手が起こる。
(まじでこいつらなんなの?裁判長のファンなの?まったく拍手できる内容じゃねえ!)
続いて、原告の番となった。
レフェリーの女性がマイクを持たせる。
「・・・」
原告はうまく言葉が出てこないようだ。
〈ほんじつは〉
レフェリーがささやいた声をマイクが拾う。
「ほ、ほんじつは」
〈お忙しい中お越しくださいましてありがとうございます〉
「お忙しい中、おしっこくさいまして・・・」
〈お越しくださいまして〉
「お越しくださいまして」
〈ありがとうございます〉
「あ、ありがとうございます」
(え?女将?あの人、女将なの?)
「ガタガタうるせいぞ馬鹿野郎!!」
裁判長がマイクで怒鳴る。
(タケちゃん?てか本当に裁判長なのこの人?ずっとろくでもないけどいいのこれ?)
両選手の挨拶が終了し、いよいよ試合が始まるようで両者が近づきにらみ合う。
レフェリーは選手の体に手で触りながら何か隠し持っていないか確認していく。
さっそく裁判長から色々発見され、それを傍聴席にマイクで読み上げながら掲げて見せる。
裁判長はペロッと舌を出して、まるで反省していない子供のようだ。
「栓抜き」
「おおーーーー!!」
傍聴席から歓声が上がる。
(昭和のプロレスかよ!ある意味懐かしい)
「印鑑」
「おおーーーー!!」
(何に使うの?実印?肌身離さずってこと?)
「オニグルミ2個」
「おおーーーー!!」
(ええーーー!なにこれ凶器?指を鍛えているの?クルミ持ち歩いている人本当にいるんだ)
「ビックリマンチョコ食べかけ」
「おおーーーー!!」
(ええーー?そのまま?ポケットにそのまま持ち歩いていたの?さすがに汚いわ)
「ファミコンの2コントローラー」
「おおーーーー!!」
(なんで?なんで2コンだけ持ち歩いているの?何に使うの?ファミコンからとって使えるの?)
すると裁判長はその2コントローラーを持つと、マイク部分に口を近づけて何かしゃべり始めた。
「おい!おい!ウーーーーー、アーーーーー!!」
(子供?裁判長小学生?2コンのマイクに喋って、なに、バンゲリングベイのつもり?懐かしいわ!)
裁判長は声を出し終えると、満足したような顔で2コンをレフェリーに渡した。
(何か意味があったの?)
いよいよ試合開始で両者一旦下がる。
蝶ネクタイは最終確認をする。
「ジャッジ!」
傍聴席前列の端の男が立つ。
「ジャッジ!」
横の男が立つ。
「ジャッジ!」
そのまた横の男が立つ。
(え?なんかこっちにきているよ。おいおいおい!なにこれ立つの?自分も立つの?)
「ジャッジ!」
ついに隣の男が起立した。
(やばい!くるぞ、くるぞ)
「ラウーーーーンド1」
(来ないのかよ!!)
両者は何やら持って、中央に寄った。
そして、裁判長はガウンを脱ぎ、原告はスエットのズボンを脱いだ。
先程、ねじ込んだ紙袋が落ちると、レフェリーがすかさずそれを足で蹴飛ばした。
両者の手にはガムテープを持っている。
裁判長は、オイルでも塗りたくったようにテッカテカの足を、原告の前に差し出した。
すると原告が声を上げた。
「おい!ツルツルじゃねえか!反則だよこれ!しかもオイルまみれで、これじゃ効果ないだろうが!」
裁判長は小馬鹿にしたように余裕の表情だ。
レフェリーは形式的に確認するが、大丈夫だとジェスチャーで皆に伝える。
原告はガムテープを裁判長の足に貼っていくが、貼っていくそばから剥がれそうになっている。
戦意を失った原告はガムテープを貼るのを諦めた。
次に裁判長からの攻撃に移った。
裁判長が出したガムテープはどう考えてもその辺に売っているガムテープではなさそうだった。
なんか通販でしか売っていない、海外製の強力なガムテープに見える。
(おいおい、あのガムテープ何でも強力にくっ付けるやつじゃないか?なんか鉄でも何でも補修できるってやっていたやつじゃないか?やばいよこれ。皮膚まで剥がれないよね?やばいのは流石に見たくないよ)
原告もそれに気づいたのか青ざめている。
原告はまるで諦めたように、剛毛に覆われた足を裁判長にゆっくりと差し出し、目を瞑った。
裁判長は、まるで悪役レスラーのようにニヤニヤしながら強力ガムテープを横にひき伸ばし、傍聴席に見せつけた。
原告は強く目を瞑り、若干震えているようにも見える。
これは見てられないかもしれないと、こちらも手に汗を握っていると、裁判長は口に指を当て(シ―)と皆に内緒だぞとすると、何かのビンを出して、その中にある粘着性の液体を原告の足に塗っていく。
思わず原告は声を出す。
「うわっ!」
さらに顔を背け、見ないようにしている。
裁判長は塗った個所に何かテープのような、紙のようなものを、手で丁寧に貼り付けていく。
しばらく時間を置くと裁判長は中腰になって、紙の上部を両手で持って、反動をつけると一気に剥がした。
「グアーーーーーーーーーー!!!」
原告の断末魔が室内に響き渡る。
裁判長は剥がしたテープを傍聴席に掲げた。
毛がこれでもかとびっしり抜けていた。
レフェリーが原告にすかさず確認する。
「ギブアップ?」
「・・・ノー」
「ギブアップ?」
「・・・ノー」
「それでも、ギブアップ?」
「・・・」
「君なら、ギブアップ?」
「・・・」
「どこでも、ギブアップ?」
「ギブアップ」
カンカンカンカン
レフェリーが裁判長の手を上げる。
勝負がついたようだ。
(なんだこれ?なんの勝負だよ。裁判所全然関係ないじゃん。いや、蝶ネクタイ出てきた時点でウスウスわかっていたけれども。それにしても、これなんの試合なの?それとも裁判なのこれ?脱毛なんか関係あるの?あれブラジリアンワックスでしょ?そして何あのギブアップ誘導。ギブアップって言うまで聞き続けるつもりだったんじゃないの?やたらしつこいし。てか、あのレフェリーどっちの味方なの?裁判長?原告?それとも本当に公平な人なの?さっぱりもって意味不明)
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