episode:3【体験】
職業柄、【死】というものが身近にあり、よく「恐怖体験とかないんですか?」と聞かれるのだが、特にない。何か視えるわけではないし、これといった怖い体験もない。
私の考え方が人と異なるからかもしれないが、亡くなった人を見ても怖いとか気持ち悪いとかはない。私にとって、生きてる人も亡くなった人も【ヒト】でしかないから。だから、生きていようが、亡くなっていようが、普通に話しかけている。【ヒト】としての接し方も変わらない。
亡くなった人に話しかけていると、だいたい「視えるの!?」と言われるが、全然何も見えない。自分が亡くなったとき、誰からも話しかけてもらえないのは悲しすぎる。そう思うから、亡くなった人には話しかけるようにしている。
「でも、何か体験はあるでしょ」
興味津々に顔を近づけてくる友人。「しつこい」と額を押し戻し、私はため息を吐き出した。
「だってさー、なかなかレアな職業だから、不思議な出来事の一つや二つ──」
「そんなの、この職業に入る前から、私の周りじゃわんさか起こってるよ!」
「う……確かに。だからこそ、余計に何かあるかなーって」
「何かって言われても。階段を上がる足音はしょっちゅう聞こえてくるし、ガタンって物がズレることもよくあるし」
「……そういうのを【体験】って、言うんだけど……」
「そうなの!? なんか、当たり前になっちゃってるから、職場の誰も気にもしてないよ」
「あらら……みんな、感覚マヒしてるのね」
「特に【怖い】とも思わないからなぁ。誰か遊びに来たんだー、くらい」
「逞しくなったね……」
「でも、怖いものは怖いし、なんかヤダなと感じるときはあるよ」
「ヤダな?」
「うん。なんか、ここ通りたくないとか、近づきたくないとか。具体的に何が嫌とかは分からないんだけど……」
「そういうのを【霊感】って言うんじゃないの? あたしは、そういうのも感じないし、分からないけど。視えるだけが、【霊感】じゃないと思うよ」
友人に言われて、「霊感って、そういうものなのか?」とも思ったが、これだけ身の回りで変なことばかり起きるのだから、少しくらいは私にも霊感があるのかもしれない。
「いろんな体験してるよねー、人生楽しそう」
「まぁ、つまらなくはないよ。勝手に変なことは起きるし、今の仕事も天職だと思ってるし」
「そうだね、間違いなく天職だろうねー! また変な体験したら、教えて」
「できることなら、したくないんだけどね。変な体験は」
「無理でしょ。向こうから、来るんだから」
「本当それな! 来なくていいんだけどねー」
そんな話を友人とした半年後、視える人物と出会うことになるとは……。
体験【完】
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