episode:2 【どちら様?】


 また、おかしな出来事が発生した。先日、職場でのこと。


「先輩、今朝○○方面を車で走ってませんでしたか?」

「え? ○○方面? 家から真逆だし、見ての通り出勤してるけど?」

「おかしいなー、確かに先輩だったんだけどなぁ……」


 ○○市は私が住む町から見て、遥か東側にある。さらに、中間地点にある会社を通り過ぎなければ、その市には行けない。後輩は、○○市方面から通勤しているのだが、会社に向かう途中で反対車線を走行している私と出くわしたと言うのだ。まったくもって、おかしな話である。


「でも、なんで私だって気づいたの?」

「先輩の車、目立つじゃないですか! なかなか乗ってる人見かけないし」

「確かに。平成10年くらいの車だからねー。令和の現代じゃ、なかなか走ってないか」

「それに! 手、振ってくれましたから」

「……は?」

「手、振ってくれたんですよ」

「……まじ?」

「まじ、です!」


 後輩が見た人物は、そのまんま私だったそうで。そっくりさんとかではなく、紛れもない私本人だったと言う。この話を聞いて驚きよりも、「またか……」と私は思ってしまった。


── 小学生の頃の記憶が蘇る。


「昨日、公園で鬼ごっこして楽しかったね!」


 家から一歩も出ず、ピアノの発表会に向けて練習をしていた昨日。だが、友人たちは私と一緒に遊んだと話していた。……もう一人の私が存在している?


 信じ難い話ではあるが、目撃者が多数いる以上、認めざるを得ない事実だ。


 ドッペルゲンガーと呼ばれているものだろうか? しかし、こんな身近にもう一人の自分がいると思うと、妙な感じだ。どこかで鉢合わせしないかと、ヒヤヒヤする。


 後輩の話では幸いにも逆方向へ向かっているようだし、今のところ、顔を合わせる可能性は少なそうだ。


「先輩、今日もすれ違いましたよ! しかも! 昨日、市の体育館の駐車場に車ありましたよ」

「え!? 私、○○市の体育館がどこにあるのかも知らないよ」

「……え?」

「見間違えじゃなくて?」

「間違いないですよ! だって、車種もナンバーも同じでしたよ」

「……まじかよ……」

「マジです!」


 それからも毎朝、後輩はもう一人の私に会うらしい。ニコニコと手を振って、すれ違うらしい。


「……どちら様なんだろうな、私のそっくりさん」

「ドッペルゲンガーさんですよ、きっと!」

「嬉しそうな顔しないでよ……。本当、私の周りは変な出来事が次から次へと……」

「先輩といると飽きなくていいですね!」

「あのねー……全っ然、フォローになってないから!」


 このまま、出くわさないことを願うばかりだ。



どちら様?【完】

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