第4話複雑な関係

「今日は私も一緒に帰って良い?」

放課後のことだった。

僕と真田凛桜が揃って教室を出ようとしていると永瀬光が呼び止めてくる。

「ん?僕は良いけど…」

そう言って隣に居る真田凛桜に視線を向けると彼女は頷いて応える。

「断る理由もないですよ」

真田凛桜の言葉を受けて永瀬光は薄く微笑んで鞄を手にした。

「じゃあご一緒するね」

そうして僕と真田凛桜と永瀬光は揃って教室を出ていこうとする。

「おい!倉敷!どうなってんだよ…お前だけ…」

友人は現在の光景が信じられないようで声を押し殺しながら僕に問いかける。

「ごめん。今度ちゃんと話すから」

「マジで頼むぞ…」

申し訳無さそうに友人に軽く手を振ると今度こそ僕らは揃って教室を出ていくのであった。



「真田さんも大吉を引いたんだよね?」

「そうですね。永瀬さんもですよね?」

「そうだね。倉敷くんも引いているって知ってるんだよね?」

「知っていますね」

「じゃあ同じ様に狙っているの?」

「そうですね。稲妻に打たれたような想いです」

「………」

「………」

二人はバチバチとしたやり取りを行っているが別に険悪とした感じではない。

ただ二人共お互いに牽制し合っているように思える。

そんな均衡を破ろうとして口を開こうかと思っていると二人は僕に視線を向ける。

「倉敷くんはどっちが良いですか?」

「倉敷。どうなのよ」

二人に急に迫られて僕は言葉に詰まってしまう。

「どっちって…まだわからないよ」

「優柔不断な男子はモテないわよ?」

永瀬光は少しだけ呆れたような物言いで僕の目を見据えると軽く嘆息した。

「倉敷くんに決めてほしいです」

真田凛桜は薄い笑みを向けて僕に答えを誘導しているようだった。

「でも…まだ…」

それでも僕は答えを見つけ出すことが出来ずに再び言葉に詰まる。

「仕方ないわね。まだ待ってあげるわよ」

「そうですね。流石に急かしすぎましたね。もう少し答えを先送りにしてもいいです」

「うん。ありがとう。真剣に考えるよ」

「そうして頂戴」

「お願いしますね」

そこから僕らは揃って帰路に就くのだが流石にここから仲良く話をするようなことはなかった。

切り替えが出来ないわけではない。

この状況で普通に話が出来る方が可笑しな話ということだ。

僕ら三人はそれぞれの帰路に就くまでただ無言で現在の状況に身を置いている。

分かれ道に辿り着くと再び口を開いたのは彼女らだった。

「帰ったら電話しても良い?」

永瀬光が僕に問いかけてくると真田凛桜も負けじと口を開く。

「私もしたいです。だめですか?」

「ちょっと真田さん。真似しないでもらっても良い?」

「いやいや。私も思っていましたから。真似じゃないです」

「………」

二人は視線を交えると数秒間睨み合っていた。

「わかったわ。じゃあ順番でしましょう」

「そうですね。倉敷くんはそれで良いですか?」

それに了承の返事をすると僕らはそこで別れるのであった。



そして帰宅すると僕は永瀬光と真田凛桜の二人と順番に数時間電話をして過ごすのであった。

眠りにつけたのは深夜過ぎだったというのは言うまでもない…。

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