第2話一歩踏み込む勇気

真田凛桜と同じ神社で大吉を引いたことを知った僕は軽く戸惑っていた。

あの神社でこんなにも大吉が出るものなのだろうか。

そんな事を軽く思考してしまう。

だがすぐにそれを否定するように頭を振った。

何故ならば数が少ないと言うだけで入っているには入っているのだ。

その様な噂話はいくつも聞いてきたのだ。

入っているみたいだけど、引いた人を見たことがない。

その様な噂も耳にしていた。

だから自分自身が引いたことにも驚いていたというのに、まさか真田凛桜まで引いているとは…。

少しだけ信じられなかったが僕はこの運命のような奇跡を信じてみようと思うのであった。



授業の区切りがつく昼休みに真田凛桜は再び生徒たちに囲まれていた。

彼女は僕の方へとチラチラ視線を送ってきたのだが僕にはどうしようも出来なさそうだった。

席を立って友人と食堂まで向かうと激安のラーメンを注文して席に腰掛ける。

「皆、真田さんが気になるんだな」

友人は僕にその様な言葉を口にしては麺を割り箸で掬っていた。

「それもそうだろ。あれだけ顔立ちの整った女子生徒だからな。すぐにでも人気者になる」

「だよな。倉敷も隣ってだけで共通点もないだろ?話すきっかけがないとな…」

「ん…あぁ…うん」

歯切れの悪い言葉を口にするとラーメンを割り箸で掬うと口に運んでいく。

二人してズルズルと麺を啜っていくと丼が空になるまで食していく。

食事を終えた僕らは食器を返却口に置いて食堂を後にした。

「ジュース買っていこうぜ」

友人は自動販売機の前で足を止める。

「だな。スープまで飲んだら喉乾いたわ」

二人してオレンジジュースを購入すると教室に戻っていく。

未だに真田凛桜は生徒に囲まれており複数人で昼食を取っていた。

僕らは教室の前の方で塊になるとスマホゲームなどをして過ごす。

あっという間に昼休みが終わっていくと予鈴が鳴り響く。

自席に戻ると真田凛桜は僕に口を開く。

「放課後は時間ありますか?」

「うん。放課後に予定はないよ」

「じゃあ一緒に帰りましょう」

「良いの?他のクラスメートも黙ってないと思うけど?」

「大丈夫です。皆さんにはもう伝えたので」

「そうなんだ。じゃあ一緒に帰ろうか」

「はい。楽しみにしています」

そうして僕らは午後の授業に取り組むとすぐに放課後はやってくるのであった。



帰りのHRが終りを迎えると真田凛桜は鞄に教科書などをしまって席を立つ。

「それじゃあ帰りましょうか」

「そうだね」

僕も鞄を手にすると二人揃って教室を後にする。

「おい。倉敷!お前…どういうことだ?」

友人は僕らの光景を目にして信じられないとでも言うように動揺している。

「また明日。話すよ」

「頼むぞ…俺だけ置いていくな…」

「何だよそれ。友人であることには変わりないだろ?」

「変わるだろ。お前が彼女持ちになったら…」

「気が早いって。落ち着けよ」

「だって…」

「じゃあまた明日な」

友人に別れを告げると僕は真田凛桜と共に校舎を抜けていく。

歩いて帰路に就いていた僕らは未だ無言のままだった。

少しの緊張と動揺のようなものを感じていた僕らだった。

「あの神社に寄っていきませんか?」

「うん。良いね」

少ない会話のやり取りで僕らは大吉を引いた恋みくじで有名な神社へと向けて歩いていった。

神社の中にあるベンチに腰掛けた僕らは少しずつ話しを進めていった。

「ここのおみくじって本当に大吉が少ないんですか?」

唐突に話が始まって僕は少しだけ思考を巡らせる。

「そんな噂を聞くね。大吉を引いた人を見たこと無いとか。でも確実に入っているとか。そんな不確定な噂をいくつも聞くよ」

「そうなんですね。じゃあ大吉を引いた私達は相当ラッキーってことですか?」

「もちろん。その通りだと思うよ」

「内容も信じて良いんですかね?信憑性ありそうですか?」

「内容…。自分自身で決めても良いんじゃない?」

「大吉を引いた人と惹かれ合うって書いてありますけど…倉敷くんは私のこと…どう思いますか?」

「えっと…キレイな人だって思うよ」

「外見だけの印象ですか?」

「まだ内面はわからないからね。ただ廊下に立っていた時、目が合ったでしょ?僕も稲妻に打たれた様な錯覚を感じたよ」

「え…それって…」

「まぁ同じ様な感じだったんじゃない。大吉を引いた同士というか。書いてあった通り惹かれ合ったんじゃない?」

「そうですよね。私もそう思います」

「だね」

そんな会話を繰り返しながら僕らの放課後は過ぎていく。

「明日からも一緒に帰りませんか?帰り道が一緒のところまで…」

「もちろんだよ。よろしく」

「はい。ありがとうございます」

「じゃあ今日はそろそろ帰ろう」

「はい。お付き合い頂いてありがとうございました」

「僕も楽しい時間だった」

「それなら良かったです」

そうして僕らは帰り道が一緒のところまで共に歩いて向かう。

そうして別れ際に連絡先を交換して帰宅するのであった。



帰宅すると僕と真田凛桜は何通かのチャットのやり取りを繰り返す。


「倉敷も大吉引いてたんだ…真田さんに見せていたもんね…」

同じクラスの永瀬光ながせひかりは手元にある大吉のおみくじを見て息を呑む。


「大吉」

「恋愛に波乱あり。成就するには苦労する」

「しかし。大吉を引いたものとは簡単に惹かれ合うだろう。相手を見つけるには注意が必要。周りをよく見ておくこと」


永瀬光はおみくじに書かれている内容を再び確認すると明日から一歩踏み込んでみようと決意するのであった。

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