まだ始まらない。

黒片大豆

「伝わらなかった、この気持ち」

 ここは、夕日が差し込むマックの店内。

 二人の高校生がポテトを囲み、なにやら語り合っているようです。


「ふられた」

「おま、告白したの2日前だったろ? 流石に早えーよ」

「ぶっちゃけ解りきってた。住む世界が違いすぎだ」

「まあお相手は、いわゆる『高嶺の花』ってやつだしな」

「ああ、もう正に『良家の御生まれ』。ファーストフードすら食ったことねーってさ……ズゾゾゾゾゾゾ」

「シェイクを音立てて吸う奴とは、到底不釣り合いだな」

「結構本気だったんだぞ」

「マジかよお前。学校での評判もあるだろ、常識考えろよ」

先生センコーに舐められてたまるかってんだ。こちとら、『ソコー』の悪さでは負けねー」

「自分でいうか、それ」

「まあ、なんだ。しばらく恋愛はいいかな……ってな」

「そりゃ重畳」

「ちょう……なんだって?」

「学もなし。まあ、しばらくは嫌なこと忘れて、こうやって放課後にでも駄弁ってようぜ」

「……まー、そうだな。こんなこと相談できんの、お前だけだし」

「俺もまあ、いろいろ思うところはあるけどな」

「はあ? なんだよ」

「さてね……おっと、もうこんな時間か」


 ふと彼が外を見ると、既に日が落ち、辺りは暗くなっていた。


「おっと、駄弁りすぎたな」

「ああ……月が綺麗だな」

「ん? だな、キレイな満月だ」


 そういうとは、いそいそと荷造りを始めた。


「じゃあな、アタシ先に帰るわ。話聞いてくれてサンキュー!!」

「ああ、お疲れ。またな」


 鬱憤を曝した彼女は、さも満足そうにマックを出た。

 残された彼は、余ったポテトをつまみながら、窓の外で手を振る相手に、同じく手を振り返した。

 屈託の無い笑顔。彼にはその笑顔が、満月より輝いて見えていた。


 彼の恋は未だ、スタートには程遠いようです。

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