第3話 スタート
新たな関係が始まった龍聖と七海。
教室から出てから、しばらくは話しづらい空気が漂っている。
どこかぎこちない、何とも言えない微妙な様子だ。
「――――」
「――――」
隣同士で歩いたまま廊下を通り、気づけば玄関に来ていた。
上履きから外靴に履き替えないといけないため、2人は一旦離れることに。
出席番号順の関係で、龍聖は玄関の入口に近いところに下駄箱がある。
「高山くん、先良いよ」
「あ、ありがとう」
七海と恋人関係になってから、初めての会話だった。
ぎこちなくて短い会話を交わし、龍聖は先に自分の下駄箱ヘ向かった。
そして、ほぼ同時のタイミングで、2人の下駄箱の扉が開く音がした。
龍聖は音に反応して、七海の方を見た。
そして彼女を見た瞬間、上履きを持って下駄箱に入れたまま止まってしまった。
(日野さんって……こんなに可愛い人だったんだな。それだもん、クラス内どころか学年でも人気なわけだ)
七海の話は、毎日のように飛び交う。
男子がアイドル的存在だという話は当たり前のように聞こえてくるが、女子との間でも彼女の話は聞こえてくる。
やはり、見た目の良さから憧れを抱く人が多く、神のような存在だ。
制服を着ただけでも映える、それが女子にとってとても羨ましいようだ。
「高山くんどうしたの? 靴、履かないの?」
「えっ、あ、ごめん! つい……」
「つい……?」
「な、何でもないんだ! 気にしなくても良いから!」
七海の声で我に帰った龍聖は、慌てて外靴に持ち替えて履く。
そして履き終わり、七海を見た。
すると、彼女の顔はちょっと不満げ。
「――――」
「ど、どうした日野さん。 気に触ったら謝るけど……もしかして怒ってる?」
「はい、わたしは怒ってます」
「お、怒ってらっしゃるんですね……。えっと、理由を伺ってもよろしいですか……?」
「わたしたちって、先ほど恋人になったばかり」
「あ、ああ。そうだな」
「ということは、これからもっと近くにいるということになるでしょ?」
「そ、そうだな」
『もっと近くにいる』という言葉に、龍聖は嬉しくなってしまった。
しかし、今この状況でニヤニヤしてしまうのはご法度だと思い、口角が上がってしまうのを必死に堪えた。
「だから……些細なことで秘密にするのは無しにしよう? わたし、もっと高山くんのこと知りたいし……」
「――――!?」
顔を赤くして視線をそらす様子、そして彼女から放たれた言葉。
龍聖はもう嬉しい気持ちを抑えきれなかった。
「分かった! 俺も、日野さんのこともっと知りたい。だから、その提案採用しよう!」
「ほ、本当!? ありがとう高山くん! その、高山くんもわたしのこと……もっと知りたいの……?」
「ああ。だって俺たちは恋人なんだろ? 日野さんのこともっと知りたいに決まってるじゃん」
「そ、そう、なんだ……。じゃ、じゃあ高山くんに一つ聞いても良い?」
「な、何なりとどうぞ!」
七海はモジモジしながら、龍聖からまた視線を逸らした。
そして、彼女の顔がほんのりと赤くなる。
一方で龍聖は、何を聞かれるんだろうとワクワクしていた。
「えっと……さっき上履き持ったままわたしのこと見てたけど、何かあったの?」
「あ、えっと……。いや、日野さんって改めて見たらめっちゃ可愛い人だなって思って。こんな俺と付き合ってくれて良いのかなって思ったんだ」
「――――!?」
それを聞いた七海は、顔を真っ赤にした。
思わず手で顔を覆った。
「よくみんなに言われるけど、わたしってそんなに可愛いの? あんまり自信ない……」
「何言ってるんだ日野さん。男子に限らず、女子にも人気があるってことは、それだけ日野さんは魅力があって、可愛い人だってことさ!」
「そ、そうなんだ……。あ、ありがとう。なんかそう言ってくれると、恥ずかしいけど嬉しいな!」
嬉しくなってクシャッと笑う七海。
毎日こんな笑顔を見せられたら、たまったものじゃないなと感じた龍聖だった。
「あと、高山くんがわたしと付き合ってくれて大丈夫なのって話だけど……。わたしは高山くんと付き合えて本当に良かったって思ってるよ! だから、これからよろしくね、高山くん!」
「ああ、これからもよろしくな。日野さん!」
お互いに笑い合って、2人は仲良く横に並んで学校の玄関を出て行った。
ただのクラスメイトだった2人が、今日からは新たな関係としてスタートした。
【短編】好き! うまチャン @issu18
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます