第3話 まさかのお姉さん!?

 担任の綾部先生が『ご両親以外の大人から仕事に関する話を聴いてまとめる』という宿題を出した。


俺と安達さんはペアを組んでいるので“俺は彼女の・彼女は俺の”周りにいる大人から話を聴く事になる。


俺に該当するのは父さんだな。母さんも短時間で働いているが、先生の趣旨を考えると父さんの方が適任だろう。


3人揃う夕食の時に話してみるか。



 「父さん、ちょっと良いか?」

夕食が終盤を迎える時に話を切り出す。


「どうかしたか? 武文たけふみ?」


「実はさ、学校で『ご両親以外の大人から仕事に関する話を聴いてまとめる』って宿題を出されたんだ」


「ほぅ、面白い事をやるな。だが親はダメか…」


「俺とペアを組んでいる人がいるんだけど、その人に父さんの仕事の話をして欲しいんだ。良いかな?」


「若者の力になれるのは光栄だが…」


なんだ? 歯切れが悪いぞ。


「ペアを組んでいる人って、当然男だよな?」


「それが女子なんだよ。同じ中学の」


「女子!? ぜひ協力しないと!」


「ちょっとお父さん…」

母さんは呆れている。


「それで、いつ話せばいいんだ?」


「詳しくは明日の現代文で話してくれるらしい」


「そうか」


ほぼ同じタイミングで3人完食し、夕食の時間が終わる。夕食後は父さんの次に風呂に入り、自室で趣味を満喫してから就寝した。



 翌日。ついに現代文の時間になる。


「隣同士、机を合わせてくれ」

教壇にいる綾部先生がそう指示した。


俺は安達さんと机を合わせる。…彼女の顔が真正面にあって緊張するぞ。


「お前達学生でもわかるように、大人は忙しい。だから期日はかなり余裕を持たせて『今年中』とする」


いまはGWゴールデンウィーク目前だから、8か月ぐらいあるな。本当に余裕があるじゃないか。


「話は以上だ。後は2人で話し合うように」



 安達さんと今後について話し合わないといけないが…。


「……」

「……」


お互い俯いたり背けたりするので、全然先に進まない。幸い? にも、同じようなペアが数組あるから目立つ事はない。


…先生が話し合ってないペアのほうに向かったぞ。会話を促すためか。ああなるのはさすがに恥ずかしいし、ここは勇気を出さないと!


「……父さんが仕事のことを話してくれるから」


「そうなんだ…」


ようやく向き合った状態で目が合ったぞ。途切れないように話し続けよう。


「安達さんもお父さんが話す感じ?」


「それが…」


言い淀むって事は違うの?


「俺はお父さんじゃなくて良いから教えて欲しいな」


「…お姉ちゃんが“話しても良い”って言ったの」


「安達さん、お姉さんがいるんだ?」


「…うん。大学を卒業して、この4月から働き出したんだよ。実家暮らしは変わらないけどね」


「ちなみに、どういった職業なの?」

大人しい安達さんのお姉さんだから、そういう系だと思うけど…。


「看護師」


「そっか…」

地味でも派手でもないな。


「松田君のお父さんはどうなの?」


「普通のサラリーマンらしいよ。詳しく聴いたことないけど」

昔から興味が湧かないんだよな。俺変わってる?


「なるほど…」



 お互い話を聴く相手を伝えたが、問題はいつ聴くかだな。


「父さんは土日休みだから、今週でもイケると思うよ」


「わかった。私はどっちでも良いけど、お姉ちゃんの事はよくわからないなぁ…」


「看護師はシフトが不規則らしいよね。それぐらいなら俺も知ってる」

安達さんが断言できないのは当然だ。


「今日父さんに話すから、明日伝えるね」


「うん…」


一応話の区切りがついたな。他に話したい事は…、今のところない。


「今回の話し合いの時間はここまでだ。また設けるから、少しずつ進めてくれ」


ちょうどキリ良く終わったな。幸先良いスタートになりそうだ。



 ……よく考えたら、父さんの話をどこで聴くんだ? 俺と安達さんは同じ中学出身だから、住んでるところも近めのはず。だから家に呼ぶことはできるが…。


今度はそれを話さないとな。そう思う俺だった。

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