また明日

汐なぎ(うしおなぎ)

全一話

 もう半年。少女の母親は、ずっと病院のベッドの上にいる。


 母親は治る見込みのない難病で、いつ死んでもおかしくないと医者は言う。


 母親はそれを知らない。

 しかし、少女は知っている。


 面会時間が終わり、少女は母親に声をかける。


「また明日」


 そして、少女は母親の手を握る。


「また明日」


 母親はそう言って、少女の手を握り返す。

 そして、包み込むように、もう片方の手を添える。


 同じ言葉をかけあう二人。


 しかし、少女の言う「また明日」と、母親の言う「また明日」の意味は、大きく違っていた。


 明日が来ることを願いたい者。

 そして、明日が来ることを疑わない者。


「じゃあ」


 少女は、母親の手を優しくほどくと、にっこりと笑って見せる。


「またね」


 母親は、そう言うと、少女に向けて手を振る。


 少女も母親に手を振り返すと、後ろ髪を引かれる思いで、病室を後にした。


 そして、少女は、ひっそりと涙を流し、心の中で祈る。


 いつまでも、母親に明日がある事を願って。

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また明日 汐なぎ(うしおなぎ) @ushionagi

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