第2話

「くそっ!足が動かねぇ!」



 かなり力を入れて足を上げようとしても、まったく微動だにしない!


 膝だけがグネグネと奇妙な動きをして歩みを進められない!



「ミーナちゃん!これ、なんなの!?」


「……」


「ていうか、その隣にいる真っ黒戦士は魔界騎士なの!?」


「……」



 俺は声だけを張り上げ、ミーナちゃんに現状の説明を要求したが、返事は帰ってこなかった。


 彼女はただ、苦虫を噛み潰した表情でうつむき、こちらを見ようとしない。


 いったいどういうことなんだろう。


 

 :なんか様子がヘンだね、如月ミーナ

 :何故に魔界騎士と一緒?

 :お兄様たちはどうした

 :アレ、魔界騎士なの?

 :噂どおりの格好してるからそうだと思う

 :ゲームとかアニメのイメージそのままだ

 :能力やスキルは未知数

 :絶海級を踏破したって幼女が言ってたな

 :中身はわからんが、強いのは間違いない

 :勇者クラスだろ

 :ひとまず【霊視】するんだ!ダイシ!



 やっぱ視聴者さんたちが一緒だと心強い!


 そうだな!動けないとはいえ、まずは敵のことを知らなきゃな!


 スキルMAXの【霊視】ならおそらく弱点や攻略法なんかも視える、はず!


 敵が仕掛けてくる前に、とりあえず視るんだ!


 とりゃ!



―――――――――――


旧暦200Ⅹ年


世界は暗黒の炎に包まれた。


地は割け、空は死に、海は赤く染め上がる。


魔王軍の進撃は止まらない。


勇者ブランブランに半世紀前の勢いはもはやない。


彼の子孫、プランプラン2世もすでに手中に収めた今、世界の半分以上は魔王ボインボイン3世のものとなっていた。


▼ 


―――――――――――



「……」



 :能力視えたか!?

 :おっさんの身体を縛ってるそれなに?

 :重力系スキルかな?

 :【成仏】効きそう?

 :【葬拳】でとりあえず地面割ろう!

 :もう【地獄門】かましちゃえよ!

 :おいおい。ミーナちゃんにそのプレイを強要するな

 :仮面してるから臭い耐性あるんじゃね?

 :とにかく何が視えたか教えろください



 い、言えねぇ……。


 これ多分、魔界騎士の前世の歴史とかから始まってるよね?


 ▼ボタンついてるし、続きはそれ押せば見れそうだけど……。


 重要な情報がどこまで視ていけば見れるのかまったくわからん。



 ていうか……



 いらん情報ばっか最初に載せてんじゃねぇぇぇぇ!!



 全部読んでる時間など当然、ない。


 せめて目次くらい用意しとけってんだよ!


 まったく使えなくなってるじゃねぇか!この【霊視】!



「まぁ、あれだ。とにかく!」



 敵を知るのは諦めよう。


 まずは動けるようにならなきゃ話にならない!


 でもどうする?


 視聴者さんの言う通り【葬拳】で地面粉砕するか!?


 いや、スキルマ状態のこの技がどの程度の威力かわからない以上、いきなり使うにはかなり勇気がいる。


 自分やミーナちゃんに危害が及ばないとも限らない。


 他にないか?


 あ、【応報】はどうだろう。


 あのスキルは反射タイプだから、ミーナちゃんに跳ね返ることはたぶんない。


 もう敵の術中にハマってしまっている状態だから意味があるかはわからんが、モノは試しだ!


 魔界騎士?であろうヤツもすでに臨戦態勢に入っている!


 とにかくやってみよう!



「応報!」



 四の五の考えるのはやめて、俺は即座に【応報】を発動した。


 羅刹天戦の時はスキルレベル2で360度光の壁を形成できたが、スキルマ状態の【応報】は果たしてどんなスキルに……



「……ん?あれ?」


「……」



 なんかエフェクトがまったく発生しなかった。


 発生はしなかったのだが、魔界騎士は攻撃の構えのままピクリとも動かなくなる。


 これ、結局どうなったの?


 一応俺の足は動くようになったからなんとなくスキルは跳ね返ってる臭いけど、ヤツはリアクションが皆無だから、アレがどういう状態になっているのかは全然わからない。


 でもまぁ、よかった!



 :魔界騎士の能力教えろよぉぉ!

 :はよ

 :一緒に対策考えてやるよ

 :教えてよぉぉぉ



 おっそろしい勢いでコメント欄が魔界騎士の能力教えろコールに包まれている様子だったが、今はまず優先すべきことがある。



 それは……



 ヒュン!



「ひゃ!」


「大丈夫だった?ミーナちゃん」



 俺は自身の敏捷性能に十分な自信を持っていたので、まずはミーナちゃんの身の安全を確保するため、超絶スピードで彼女をお姫様抱っこして元の位置に戻った。


 予想通り、瞬間移動のごとき速さでそれは簡単に成し遂げることができた。



「ダ、ダイシさん……」


「色々聞きたい事あるんだけど、今は……」



 動けなくなっていたと思っていた魔界騎士が再び攻撃態勢をとっていた。


 おそらく【応報】で俺の身体を縛っていたスキルの概念は返せたのだろうが、アイツはいとも簡単にそれを解いて、再び俺との戦闘準備を完了していた。


 俺も、構えなければならない。


 そしてミーナちゃんにはサポートをお願いしたい。


 彼女は確か大僧侶で回復・強化系スキルは得意だったと思う。


 俺とミーナちゃんが力を合わせれば、たとえ魔界騎士だろうと圧倒的にこの場を制圧できるだけの戦力になるはずだ!


 よし!


 じゃあミーナちゃんをおっさんのお姫様抱っこから解放して、共同作戦のご提案を……



「……ごめんなさい、ダイシさん」


「えっ?」


「私……あなたを助けられない……」



 ミーナちゃんを地上に降ろそうとした瞬間、魔界騎士が振り下ろす漆黒の刃が俺の目前まで迫っていた。

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