第25話

「それどういう意味?ミーナ」


「言葉どおりの意味よ、サツキ」



 かわいい系女子と綺麗系女子が深刻そうに話をしている。


 サツキちゃんはミーナちゃんとは腐れ縁って言ってたけど2人はどういう関係なのだろう。


 幼馴染とかかな。


 あとで聞いてみよう。


 それにしても人間じゃないってのは、人間離れしてるって意味でいいのかな?


 それとも冥王のアレ、食べちゃってるから「コイツ、もはや人じゃねぇ!」とか思われてる?



 :もうタダのおっさんってワケにはいかんだろ

 :ステ的にはすでにSS級かもな

 :まだレベル10だったよね?

 :しかも初心者

 :バグってるとかそういう話でもない気がする

 :人間ヤメマスカ

 :ミーナってすごい綺麗な子だな

 :女優さんみたい

 :スレイのパーティは配信してないからナマで見るの初めて

 :人間じゃないほうが色々辻褄合うよな

 :じゃあなんだってんだよ

 :demon daishi!!



 おい外国人。大量のコメント欄に紛れて人のこと悪魔とか言うなよ。


 失礼な。


 俺は人間だよ!


 一応これまでの37年間、人並の人生は歩んできたつもりだ。独身だけど。


 ちょっと陰キャ属性強めであまり友達とか彼女とかいないけど、こないだまで普通にサラリーマンしてました。


 ごく普通の一般ピーポーです。



「確証はないけどね。直感だから。サツキの言う通り、ギルド本部で精密検査受けたほうがいいとは思う」


「ミーナのカンほど怖いものはないけどね……」



 カンが怖いって当たってる確率が高いってこと?


 今まで生きてきて、特に変わったこととか別になかったと思うんだけどなぁ。


 ……。


 それはそうと。


 ミーナちゃんってSS級の探索者でかつ大僧侶だって言ってたよな。


 ステータスってどうなってんだろ。


 めっちゃ気になる。


 ちょっと罪悪感はあるけど、こっそり【霊視】で視ちゃおうかな。


 サツキちゃんと話してる今ならチャンスだ。


 どれどれ、ミーナちゃんの能力値やいかに……。



―――――――――――


名前 如月 ミーナ

職業 大僧侶

レベル 71


HP 525/525

MP 149/712

腕力 211

体力 309

敏捷 342 

精神 671

魔力 690


スキル 

【蘇生 LV1】【聖柱 LV3】【光壁 LV4】【弱化 LV3】【強化 LV3】【浄化 LV5】【治癒 LV5】……


称号

 【SS級探索者】【聖堂の巫女】【救世の使徒】【戦乙女の加護】……


前世

 聖女リリアーナ


―――――――――――


 SS級ってこのくらいの能力値なんだ。


 まぁ個人差はあるんだろうけど。


 どんな基準を満たせばSS級の称号ってもらえるんだろうか。


 単純なステータス値ってワケでもないのかな。称号の種類とかも関係あるのかも。


 それもあとでサツキちゃんに聞いてみよっかな。


 それにしても。


 視えてるスキルや称号の情報量が、前にサツキちゃんを視た時より多くなっている気がする。


 【霊視】のレベルが上がってるからか。


 なんか前世まで視えてるし。


 聖女リリアーナって誰だよ。



「それじゃあ私たちは一度ここを脱出するね。回復アイテムとか尽きちゃったし」


「えっ、もう帰るの?」



 せっかくSS級の方たちとお知り合いになれたのにちょっと名残惜しい。


 もうちょっと話したかったな。



「ええ。また修行して出直すわ。これ以上進んでも多分攻略できないし」


「そっか。それは残念だね」


「ところで、貴方たちって時空ウサギに10分間ここに飛ばされてるだけだよね?」


「そうだよ。サツキちゃんに聞いたんだね」


「もうとっくに経ってるんじゃないの?10分」



 あ、ホントだ!


 色々ありすぎて忘れてた!



「サツキちゃん!」


「そうですね。もうかれこれ20分は経ってますね」


「あの部長ウサギがぁ!」


「部長ウサギ??」


「あ、いや。なんでもないっす」



 感情的になって思わず俺が命名した部長ウサギを披露してしまった。


 恥ずかしい。



 :部長って社畜時代の上司?

 :あの時空ウサギが似てたのかな?

 :あんな憎たらしい顔してたのか

 :そら辞めるわ

 :power harassment?

 :さすがにルールを無視したことはないんじゃないか?ウサギ

 :クリアされると思ってなくて意地悪してんのか

 :何か事情があるのかな



 どんな事情があるにせよ、約束は守ってほしい。


 その辺もホントあのク〇上司そっくりだ。



「しょうがない。【回帰】使って戻ろうか、サツキちゃん」


「そうですね。でも、報酬は絶対にもらいましょうね!」


「ああ。さすがに条件は満たしてんだからそれは必ずいただく!」



 もらえなかったら丸焼きに……。


 いや、そんな物騒なことはせず穏便にお願いしてみよう。


 俺、大人だし。



「西東京のダンジョン攻略終わったらちゃんと本部行ってね、阿尻ダイシさん」


「そうさせてもらうよ。ミーナちゃん達も、これから頑張ってね!」


「ありがとう!ダイシさんの力がどこから来てるものかはわからないけど、冥竜王や冥王に対して怯まなかったあの姿はとても素敵でしたよ!」



 屈託なくそう俺を褒めたたえてくれる大僧侶のミーナちゃん。


 本物のやさしさが溢れてる気がする。天使だ。


 ちょっとニヤついてしまう。



「それに……」


「ん?えっ!?」


「ちょっ!な、なにやってんのよ、ミーナ!」



 ミーナちゃんは突然俺のおでこに手を当てると、目元が隠れる長い前髪をグイっと上に押し上げ、とても柔らかい笑顔で最後にこう言ってくれた。



「やっぱり……。ダイシさん、前髪上げたらすっごいイケメン!」


「え、えっ??」


「サツキに飽きたらいつでも言ってね」



 妖艶な瞳を片方だけパチリとさせ、ウィンクしてくるミーナちゃん。


 えっ?いいんですか?


 正直サツキちゃんよりタイプ……。


 って、いやいや。待て待て俺。こんなの社交辞令に決まってるだろ。


 37年も生きてるんだからいい加減気づけ、俺。



「ミーナ!」


「あはは。ごめんごめん。それじゃあね!またどこかで会えることを心から祈っているわ!」

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