第37話 決別

 火を鎮める清き風を操りながら、こちらへと向かってくるミサに、仲間の魔法使いは目を丸くした。


「あんた……」


 一瞬目を合わせたミサだったが、すぐにボスガルムの方へと向き直る。


「シュヴァル様。援護は任せて下さい」

「ああ」


 心強すぎだろう。

 ボスは一体。

 俺にも、もう余力はあまりないが、ミサが手を貸してくれるならば、負けるビジョンは浮かばない。


「行くぞ!!」


 剣を正眼に構える。

 ゴーレムに技はない。

 ただ、真っ向から両断するのみ。


「うぉおおおおおおっ!!!」


 駆け出した俺。

 対するボスガルムも、鋭い爪を光らせながら、突進してくる。

 スピードはほぼ互角……だが。


「風の精霊よ!!」


 ミサが操る精霊達が、俺の背を推してくれる。

 風のブースターを得た俺は、先ほどに倍する速度でボスガルムの懐に飛び込んだ。

 ボスガルムの瞳が、驚愕に見開かれる。


「終わりだ」


 逆袈裟に斬り上げた大剣が、ボスガルムの身体を真っ二つに斬り裂いていた。




「精霊様、ありがとうございました!!」


 宙を漂う風の精霊に、ミサは深々と頭を下げた。

 ガルム達を退けた後、精霊達の力で山火事は完全に鎮火された。

 戦っているうちにかなりの規模の大火事になってしまっていたはずだが、いやはや精霊の力というのは凄いものだ。

 もちろん、それを操るミサの実力も。


「あんた……」


 ミサから受け取った回復薬を飲み、少し落ち着いたらしい魔法使いの女は、目を伏せたままだ。

 自分達が捨てたミサが、このたった2、3日の間に力をつけ、自分達を助けたという事実に何か思うところがあるのだろう。

 それに、ここには、あのシンという男の姿が無かった。

 ともすれば、この3人の独断専行。

 あるいは……。


「これで治療は終わりです」


 気絶したままの戦士に包帯を巻き終わったミサが、徐に立ち上がる。


「え、と、あ……」


 何かを言おうとした魔法使いだったが、ミサはそれを聞くこともなく、彼女に背を向けた。

 それは、ミサの明確な拒絶の意志が表れていた。


「行きましょう。シュヴァル様」


 俺の返事を聞くまでもなく、ミサはネムを抱くとそのまま木々の焼け落ちた森をやや早足で歩き出す。

 俺もそんな彼女に歩幅を合わせるように追従した。


「いいんだな?」

「はい。私はもう」


 決別を表すように、ミサの目は曇りなく前だけを見つめていた。

 こうしてミサは、力と、そして、自分の意志を手に入れたのだった。

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