第36話 救出

「間一髪だったな」


 ガルムの一匹を飛び蹴りで始末した俺は、大剣を構える。

 四肢と同様、こちらも予備としてゴミ山に隠しておいたものだ。

 以前使っていたものよりは少し小ぶりだが、強度は申し分ない。


「あ、あんた……。ミサの……」

「彼女の頼みだ。お前達を助けてやる」


 それだけ言うと、俺は周囲のガルム共へと睨みを効かせた。

 以前はそれで退却してくれたが、今日の奴らは殺気立っている。

 そのまま退くことはせず、奴らは俺へと一斉に襲いかかってきた。


「退いてくれるとありがたかったんだがな」


 マントを翻し、俺は駆け出した。

 飛び上がり、襲いかかってきた二匹を一振りで仕留める。

 だが、その間に四方八方から、ガルム共が俺へと牙を突き立てた。

 普段なら鎧で防げそうなものだが、ドラゴンとの戦いでダメージを負った鎧は、ミシミシと音を立てて、今にも砕けそうだ。

 ゴーレムコアに蓄えられた魔力も、心許ない。

 感覚こそないが、この暑さも、本体にどんな影響を与えるかわかったものじゃない。

 疲れ知らずのゴーレムボディとはいえ、流石に長期戦は無理そうだった。


「うぉおおおおッ!!」


 コアの魔法力の一部を解き放ち、群がってくるガルム共を吹き飛ばす。

 その際、左腕で一匹だけ掴むと、そのまま喉元を握りつぶした。

 超人的な握力で握りしめた反動で、返り血がスプレーのように吹き出す。

 そうして、亡骸となったガルムから、俺は残留魔力を吸収した。


「さあ、やるなら徹底的に行こう」


 その後の俺は、まさに鬼神だったと言っていい。

 狩っては喰らい、狩っては喰らいを繰り返しながら、ガルムの数をどんどん減らしていく。

 だが、どれだけ数を減らしても、奴らが逃げ出す素振りはない。

 おかしい。こいつらは警戒心が強かったはず。

 仲間がこれだけやられて、それでも特攻してくるものなのか?

 その時、脳裏に以前のゴブリン達との戦いがよぎった。

 奴らは、恐怖していても、ボスの命令には逆らえず、俺に挑んできた。

 もし、こいつらが、それと同じだとするならば……。


「あ、危ないッ!!」

「ッ!?」


 最後の一匹にトドメを刺したタイミングで、唐突に横合いから何かが俺のいた場所を通り抜けた。

 それは爪だ。

 だが、普通のガルム達の爪とは比較にならないほどに大きく、鋭い。

 ミサの仲間の魔法使いの声で、なんとかギリギリで回避できたが、当たっていれば、かなり危なかった。


「こいつが、こいつらのボスか……」


 爪の持ち主である魔物はかなりの巨体だった。

 身体の作りはこれまで戦ってきたガルムと大差ないが、大きさは比較にならない。

 流石にドラゴンほど大きくはないが、それでも2メートル近い俺の3倍ほどのデカさはある。

 その上、さっきの攻撃を見る限り、素早さは身体の小さなガルムとそう変わらない。


「厄介だな」


 パワーもスピードもある相手だ。

 万全の状態ならいざ知らず、ドラゴン戦後で、無理できない今の俺では、苦戦は必至だ。


「おい、ミサの仲間」


 声をかけたのは魔法使いの女だ。

 僧侶の女は到着した時点で気絶しており、戦士の男も半ば意識が朦朧としているようだ。

 ん、今更だが、あのシンとかいう勇者はいないのか……?

 まあ、いい。


「その二人を連れて、さっさと逃げろ」


 残すところはこのボスガルムだけだ。

 こいつさえ引きつけておけば、こいつらに手を出す者はもういない。


「む、無理よ。こんなに火が回って……」

「むッ……」


 暑さ寒さを感じないゴーレムの身体だから気づかなかったが、森の火災はさらに激しくなっていた。

 まずいな。

 このままでは、戦っているうちに、ミサの仲間達の体力の方が尽きてしまう。

 その時だった。

 湿気を含んだ風が吹き荒れたかと思うと、炎の勢いが目に見えて弱くなった。


「これは……」

「シュヴァル様!!」


 ネムを胸に抱き、ミサが精霊を引き連れてやってきたのだった。

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