第33話 山火事

「山火事?」


 あの炎がチラつくようなオレンジ色の反射は、確かに山火事のようにも見える。

 だが、だとすれば、相当広範囲の山火事だ。

 それこそ山一つ分くらい禿げさせてしまうくらいの。


「あの方向は、古戦場の辺りでしょうか……」


 ふむ、言われてみれば、この方角と距離ならば、俺が捨てられていたあのゴミ山に近い。

 埋めておいたゴーレムコアは大丈夫だろうか。


「なんにせよ。今はまず、シュヴァル様を」

「いや、すまん。大丈夫だ……」


 ミサが山火事に気を取られていた一瞬のうちに、なんとかパスを再接続した俺は、よたよたと立ち上がる。

 ドラゴンからの攻撃のダメージに加え、リミッターを解除して戦った事で、外見も中身もボロボロ状態だ。

 とはいえ、戦闘が割合短時間だったこともあってか、なんとかギリギリ動くことはできそうだ。


「シュヴァル様!! よかった……」

「なんとか無事だ。ミサも怪我はないか?」

「はい!!」


 実際のところ、風の精霊の力のおかげで、ミサには怪我一つなさそうだ。

 不幸中の幸いという奴だな。


「精霊とも契約できたのだな」

「はい。これもシュヴァル様のおかげです!!」


 心から嬉しそうにそう言う彼女の笑顔を見ていると、こちらもにやけてきてしまう。


「シュヴァル様、とりあえず応急処置を」

「いや、今はいい。それより、あれだ」


 俺は山火事が起こっているであろう方向へと視線を向ける。


「古戦場の辺りだな」 

「はい、おそらく……」


 ミサは何か不安そうに、胸元で右手を握った。


「なんだか、嫌な予感がします」

「ふむ」


 精霊感知のスキルを持つミサだ。

 もしかしたら、普通の人よりも、勘に優れた部分がある可能性はある。


「行ってみるか?」

「え、でも……」

「俺はこの通り、まだまだ大丈夫だ」


 そう言いながら、力こぶを作ってみせるような仕草をする俺。

 実際のところ、中身はボロボロなので、戦闘は流石に避けたいところだが、普通に動く分には、まだなんとかなるだろう。 


「どちらにしろ、街に帰るにはあの近くを通る必要がある。ある程度近くまで行ってみて、危険がありそうであれば、迂回しよう」

「わ、わかりました」


 こうして、精霊との契約を果たしたミサと二人の俺は、山火事の起こっている方を目指して歩き出したのだった。

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