第29話 VSドラゴン
「そんな、こんなところに……」
アーカイブを参照すると、ドラゴンはこの世界においても、かなりレアな魔物だ。
普通であれば、人里離れた山奥や僻地なんかにいることが多いわけだが……。
と、ドラゴンが大きく口を開いた。
何か仕掛けてくるかと警戒したが、違う。
ゴーレムの目には魔力の流れがはっきりとわかる。
こいつ、精霊達の発する風の魔力を喰ってるのか。
「奴にとっての餌場というわけか」
なんにせよ、こちらの事は気にも留めていない。
ミサに目配せする。
(こっそりこの場を立ち去ろう)
(はい)
アイコンタクトでそうやりとりすると、俺たちはその場を……。
(むっ)
その時だった。
本体の下腹部にムズムズが走る。
やばい、これは……。
(泣くな!! 我慢しろ、俺!!)
赤ん坊にとっての生理現象をなんとか我慢しようと気合を入れる。
だが、ゴーレムにも意識を割いている今、それはあまりにも厳しく……。
「おんぎゃああああ!!!」
膀胱が瓦解すると同時に、自分でも制御できない涙が頬を流れる。
赤ん坊の大きな鳴き声に、奴の瞳がギロリとこちらを向いた。
餌場を荒らされたと思ったのかもしれない。
ドラゴンの瞳に、明らかな殺気が宿る。
ごくりと唾を飲み込む……ことはできない無機質な身体だが、明らかな緊張が全身を強張らせる。
やれるのか?
このゴーレムのパワーなら、ドラゴンともやり合えるか?
これまで戦ってきた相手は格下ばかりだったので、このゴーレムボディの強さにいまいち客観性が持てない。
だが、この不安定な足場に、吹き荒れる暴風だ。
逃げようと思っても、逃げ切れるものじゃない。
それに……。
ミサがペタンと座り込んだ。
腰が抜けたのかもしれない。
それくらいドラゴンの迫力というのは凄まじい。
俺だって逃げ出したいくらいだ。
だが、彼女を守るためには、やるしかない。
俺は徐に抱っこ紐を解くと、おぶっていたネムを座り込むミサに抱かせた。
「シュヴァル様……?」
「ネムをしっかり抱いててやってくれ」
「だ、ダメです。逃げ……」
最後まで、聞き終える前に、俺は地面を強く蹴っていた。
ゴーレムの巨体さえ煽られそうになる暴風の中を横回転しながら、風の影響のない上空まで飛び上がる。
ドラゴンの瞳が俺を捉えた。
そうだ。俺の方へ来い。
太陽の光を受けて、ギラギラと鱗を光らせた巨体が、俺へと一直線に飛翔してくる。
明らかに重力を無視した動き。
これも魔力によるものかはわからないが、巨体のイメージほど、鈍重ではない。
「うぉおおおおおおっ!!!」
手加減などなしだ。
全力で、大上段から剣を振り下ろす。
脳天の硬い鱗へと叩き込まれた大剣は、火花を散らす。
これが生き物の皮膚か!?
金属めいた硬さの鱗にあえなく斬撃を防がれた俺は、そのまま、ドラゴンが横薙ぎに振った首に吹き飛ばされる。
強烈なGを受けながら、俺は地面へと落下した。
「くっ……」
強い。
強すぎる。
これが、いわゆる最強生物の実力か。
もう少しは、渡り合えると思っていたが……。
ギュッと強く抱かれる感触がした。
本体のネムを通して、ミサの不安さが伝わってくる。
……彼女にこんな思いをさせちゃいけないな。
ガラガラと土の塊を落としながら、俺は立ち上がる。
さすが、ゴーレム、なんともないぜ……とまではいかないが、まだまだ、動けないというほどではない。
このままの状態で戦っても、おそらく勝ち目は無いだろう。
だったら……。
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