第27話 精霊使いへの道しるべ

 翌日、陽が昇ったばかりの早朝、俺達はギルドを訪れていた。


「ルーミの事、ありがとうね。あの子、ギルド長の娘なんだけど、色々問題があってね」


 一般の冒険者達ですら、まだ、あまり姿を現していない早朝だというのに、シャキリと背筋て爽やかな笑みを浮かべながら話しかけてくるのは、ルーミの先輩受付嬢であるキリカさんだった。

 本当はまずルーミに相談しようと思ったのだが、彼女はまだ出勤してきておらず、代わりにキリカさんが対応してくれることになったのだ。

 ルーミには悪いが、非常に真面目な案件だし、かえって良かったかもしれない。


「まあ、あの娘のことは置いておいて、今日はこんな早朝にどんなご用件かしら?」

「転職をしたい」

「あら、冒険者になる意思が固まったの?」

「俺じゃない。ミサの方だ」


 目で促すと、ここからは自分で話すという風に、ミサは姿勢を正した。


「わ、私、精霊使いに転職がしたいんです」

「精霊使い、ですって……」


 お姉さんが目を丸くしている。

 受付嬢である彼女をして、かなりレアな職業なのだろう。


「ミサちゃん、精霊使いになるには、勇者なんかと同じで、生まれながらの素質が……」

「ス……スキルなら、ありますッ!! 精霊感知っていう……」

「……本当なの?」

「魔道具で確認した。おそらくだが」


 キリカさんは熟考した後、一度部屋から出ていくと、すぐに何やら紋様のようなものの描かれた紙を持って出てきた。


「ミサちゃん、ここに血を一滴いただける?」

「は、はい……」


 ナイフで親指の腹を軽く割くと、滴った血が、羊皮紙のようなそれを湿らせる。

 すると、じわじわとミサのステータスが浮かび上がってきた。


「"精霊感知"……本当だわ」

「今まではギルドでもスキルを確認していなかったのか?」

「スキルの確認は冒険者側からの依頼がないと行わないの。それに、これはいわゆる隠しスキルになっているわね。一定以上の鑑定紙でなければ、そもそもスキルが表示されないのよ」


 なるほど、そのせいで、今まではっきりと自分のスキルを把握できていなかったのか。


「驚いた。こんなスキルを持ってるなら、確かに精霊使いになれるかもしれない。でも……」

「何か問題があるのか?」

「精霊使いになるには、ギルドからの洗礼だけでなく、精霊と実際に契約を交わさないといけないの。風の精霊や、水の精霊。土の精霊や火の精霊達と」

「精霊というのは、どこで契約をすればいいんだ?」

「わからないわ。だって、精霊使いなんて、歴史上ほとんど……」


 沈黙が場を支配する。

 レア職業ゆえに、他の職業のような道標が存在しない。

 やはり、簡単にはいかないか。


「あ、あの……」

「どうした、ミサ」

「私、なんとなくなんですが、精霊のいる場所、わかるかも……です」

「えっ……?」

「実は、今でも、たまに精霊達の声が聞こえるんです。それで、魔物がたくさんいる場所を避けられたりしたこともありました」


 なんと。

 つまり、ミサは、すでに無意識化でスキルを活用していたということか。

 そういえば、彼女はたった一人で、あの古戦場までたどり着くことができた。

 それは、精霊の思し召しもあったのかもしれない。


「どこにいるんだ。精霊は?」

「えっと……。街道からかなり外れた……」

「あ、地図ありますよ」


 キリカが広げた街の周辺の地図。

 ミサが指差したのは、街から南東にある渓谷地帯のようだった。


「ここは……俗に"風の渓谷"と呼ばれている場所ですね」

「ふむ、名前からすると、風の精霊でも住んでいるのか?」

「おそらくは。うん、確かにここなら、精霊達が住んでいてもおかしくない」


 優秀な受付嬢であるキリカがそう言うということは、ある程度期待しても良さそうだ。


「よし、善は急げだ」


 ヨッと勢いをつけて、俺は腰を上げた。


「行こう。ミサ」

「一緒に行っていただけるんですか?」

「当然だろう」


 今更、何を言ってるんだか。


「強くなって、パーティーの奴らを見返してやろう」


 俺の言葉に、ミサはコクリと頷いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る