第26話 人生の選択

 さて、ギルドに着いた俺達は、あのルーミという受付嬢に討伐の報告をした。

 倒したもののの種類や数に関しては、冒険者の持つカードというやつに全て記録されるらしい。

 俺は、持っていないが、ミサのカードに記録されていた情報から、適切な報酬を受け取ることができた。


「街道沿いに出る弱い魔物とはいえ、これだけ狩るとそれなりにはなるものなのだな」


 流石に、獣の皮を売った金額よりは少ないものの、生活費としては十分な銀貨を受け取ることができた。

 俺自身が冒険者に登録することは難しいだろうが、ミサが一緒にいてくれるなら、これからもこの仕事を生業にしていくのも悪くない。

 もっとも、約束の3日が過ぎても、ミサがそれを望んでくれるならば、という前提ではあるが。


「ネムちゃんに必要なものも揃いましたね」


 大量のおむつひもの入った鞄を抱えながら、ミサもホクホク顔だ。

 このまま宿に戻ってもいいのだが、俺は一つミサに聞いてみたいことがあった。


「ミサ、少しいいだろうか」

「え、あ、はい……」


 なんとなく、真剣な雰囲気を感じたのか、少し戸惑いを見せるミサ。

 そんな彼女を俺は、小川沿いのベンチまで誘導すると、一緒に腰を下ろさせた。


「あの、シュヴァル様……?」

「一つ、ミサに問いたいことがある」

「な、なんでしょう?」

「ミサは、盗賊から転職する気はあるのか?」

「転職……ですか」


 考えてもみなかったという風に、ミサが首を傾げる。


「確かに、自分でも今の職業が自分に向いているとは思っていません。でも、盗賊でない私には、シン様達のパーティーにいる価値は……」

「本当にそう思うか?」


 俺の問いかけに、ミサの身体がビクリと震えた。


「仮に、ミサがあのパーティーに戻れたとして、今のままでは、また仲間から外されてしまうんじゃないか?」


 ミサも馬鹿じゃない。

 本当はわかっているのだ。

 盗賊のままの自分では、この先やって行くことは難しいと。


「実はさっき、商人が持っていた魔道具で、ミサのスキルを見た。君は、生まれながら、"精霊感知"というスキルを持っている」

「それは……」


 今の反応で、ミサ本人も自身のスキルについては自覚していたらしい。


「たまに、風の精霊の声が聞こえたり、歌が聞こえることがあったり、その程度のもので……」

「このスキルはかなりのレアスキルだ。ともすれば、レア職業である"精霊使い"になれる可能性がある」


 ミサのスキルを知ってから、ゴーレムのアーカイブ内を調べると、精霊使いについての記述があった。

 歴史上、ほんの数人しか現れていない勇者以上に珍しい職業であり、精霊達の声を聞き、その力を借り、行使することのできる強力な力を有する。

 もし、ミサがその力を身につけることができたとすれば、これまでの評価が一変するのは間違いないだろう。


「君のスキルを盗み見てしまったことは申し訳ない。ただ、俺は、ミサが今のまま、自分を押し殺して生きていって欲しくない」


 俺は前世でそういう風にしか生きられなかった。

 だが、ミサは違う。

 これから、いくらだってやり直しがきくはずなのだ。


「今夜は、別々に宿を取ろう。一晩じっくり考えてみてほしい。自分がどうしたいのか、を」


 冒険者としての職業を変えるということは、長い人生においても、大きな決断になるのは間違いない。

 考える時間はいくらあったって足りないだろう。

 それだけ伝えて、その場を乳母車と共に去ろうとした俺。

 だが、その手をミサが掴んでいた。


「ミサ……?」

「一晩なんて、必要ありません」


 明確な意志の籠った瞳で、彼女は俺を見つめていた。


「私、挑戦したいです……。精霊使いへの転職に……」

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