第24話 小さな違和感
「このあたりですね」
到着したのは、昨日ゴブリンを退治したあたりだった。
この辺りは、特に魔物の数が増えているらしく、行商人が積み荷を奪われるなんてこともあったらしい。
「では、サクッと行くか」
背中にかけていた大剣を引き抜くと、俺は周囲の魔力を確認する。
ふむ、あの森の入り口あたりにかなりの数がいるな。
おおかた、人間達の動きを遠くで見ているのだろう。
「ミサ、ネムを頼む。少し行ってくる」
「えっ、シュヴァル様、私も……」
最後まで聞き終えることなく、俺は地面を強く蹴った。
見通しの良い空中まで出ると、すぐに森の木々に隠れるようにして、俺達の様子を窺っていた魔物達を見つけた。
ほとんどはゴブリンだが、中にはホビット族のような小柄な個体も見られる。
「さて、暴れるか」
ゴーレムの戦い方は非常にシンプル。
力押しだ。
人間のようにスキルを駆使して戦うなんてことができない分、ただひたすらに力に物を言わせて、殴る。
それに耐えられるように、大剣も切れ味よりも、頑丈さを重視して製作した。
そんなほぼ鈍器と言ってよい大剣を逆手に持つと、俺は位置エネルギーの力を全てぶつけるように、奴らのど真ん中に落下した。
地面が穿たれ、衝撃波で周りの魔物達が吹き飛んだ。
半ばクレーターのようになってしまった地面を蹴り、そのまま息つく間もなく、一閃、二閃と剣を振るう。
魔物達は完全に逃げるモードだが、今後も旅人に危害を加える可能性がある以上、甘い顔をするわけにはいかない。
「これで最後だ」
最後の3匹の色違いゴブリンを一振りで葬り去ると、俺は、ふぅと一息ついた。
無機質でできた身体なので、汗をかくことはもちろんないのだが、元々の身体の癖なのか、なんとなく額の汗を拭うような動作をしてしまうな。
「シュ、シュヴァル様!!」
乳母車を全体重を使ってなんとか押しながら、ゆっくりとミサがやってくる。
「も、もう、一人で行っちゃうなんて……」
「すまん。だが、ミサがネムを見てくれているおかげで、安心して、俺が動けるんだ」
つい、と頭を掻いていると、ミサは小さく、ふぅ、と息を吐いた。
「私にも、シュヴァル様くらいの力があったら良いのですが……」
「ミサ……」
普通に振る舞ってはいるが、パーティーメンバーに捨てられたのは、ほんの昨夜の話だ。
自分の力の無さに思うところがあるのだろう。
「そういえば、ミサが盗賊になったのは、パーティーメンバーのバランスを考えて、ということだったな」
「あ、はい、シン様を中心にパーティーを組むとなった時に、それぞれがなりたい職業と全体のバランスを考えた結果、そうなってしまったというか……」
なってしまった、か。
無意識かもしれないが、言葉尻に、ミサ本人の希望ではないということが滲み出ている。
「そんなに盗賊という職種は必要なものなのか?」
「盗賊は、戦闘以外のスキルに有用なものが多いですから」
ふむ、そういえば、アーカイブの知識でも索敵や探知系のスキルに特化している旨の記述があったな。
スキルというのは、本人の職業適性が低くても、習得さえしまえば、発動するものがほとんどのようだし、ミサは完全なスキル要員としての役割を与えられたというところか。
しかし、ある意味で、パーティーに無くてはならない存在だったはずのミサをこんなに簡単に手放してしまうなんて、彼らは何を考えているのやら。
そのうち、返してくれと泣きついてくるんじゃないか。
「ちなみに、ミサ自身はなりたい職業とかはなかったのか?」
「私は、その……いえ、特にありませんでした」
そう言いつつ、どこともない場所へと視線を向けるミサ。
その姿に若干の違和感を覚えつつも、結局会話はそこで終わりになった。
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