第23話 魔物退治の依頼

「………………」

「………………」


 ギルドの隅にあった、応接用と思しきスペース。

 そのソファに座ったゴーレムの俺とルーミは、お互い黙って向かい合っていた。


「………………」

「………………」

「あ、あの、ルーミさん。そろそろ……」

「え、あっ、ひゃい!!」


 沈黙に耐えかねたミサの一言で、ルーミがびくりとしながらも、口を開いた。


「で、では、その……シュ、シュヴァルさん。まずは、冒険者登録を……」

「俺は冒険者になるなんて、一言も言っていないのだが」

「あ、あひぃ!! すみゃせん!!」


 少し怒った風に聞こえただろうか。

 いや、でも、こういうことははっきり伝えておかないと。


「すまんが、俺は、とある呪いに冒されていて、冒険者として活動することはできないんだ」

「の、呪い……?」

「ああ」

「ど、どんな呪いなのですか……?」


 意外にも興味を持ったのか、グイグイ聞いてくるルーミ。


「詳しくは自分にもわからん。だが、素顔が化け物のようになり、皮膚の色が変化し、そして、スキルが使えなくなった」

「ひ、ひぃ……!!!!?」


 自分で聞いたのに、頭を抱えて、身を震わせている姿に思わず笑いそうになってしまう。

 これくらい言っておけば、素顔を見ようとしたり、冒険者にさせようとすることもないだろう。

 そう思ったのだが……。


「あ、あの……。よ、宜しかったら、解呪を試してみますか……?」


 解呪。

 つまり、呪いの解除を試してみようということか。


「ギルドではそういうこともしているのか?」

「ちょ、直接しているわけではありませんが。紹介状を書くくらいであれば……」


 なるほど、専門の施設が他にあるんだな。

 だがしかし、このゴーレムは本当は呪いにかかっているわけでもないし、俺の本体であるネムも、何のきっかけか、最近は普通の赤ん坊のようになってきたので、今すぐに必要というわけでもない。


「ありがたい申し出ではあるが、今回は遠慮しておく」

「そ、そうですか……」


 ルーミは少し残念そうに、息を吐いた。

 未だ目こそ合わせないものの、俺の境遇に対しては、真っ当に同情してくれているようだ。

 色々、癖はあるが、この娘も根は悪くなさそうだな。

 よし、ここはひと肌脱いでおくか。


「冒険者登録はできないが、クエストの手伝いならできるかもしれん」

「そうですね。一応私は冒険者ですし、協力者という形にすれば、一緒にクエストに出ても構いませんよね?」


 ミサの問いに、ルーミはこくりと頷いだ。


「は、はい……た、多分、大丈夫です」


 もしかしたら、キリカ先輩には多少怒られてしまうかもしれないが、そのあたりが落としどころだろう。


「で、いったい、どんな仕事なんだ?」

「え、えっと……」


 ガサガサと乱雑に資料を漁ると、彼女は読み上げる。


「街道の安全確保のための魔物退治です」

「ほう」


 街道というと、昨日俺とミサが途中から通ってきたあの道だろう。

 思い返して見ると、確かに街道というわりに魔物が多かったような気がするけど。


「魔物の増加には、何か理由があるのか?」

「た、単純に、退治の依頼があまり捌けていなくて……」


 資料に目を通しながら、ルーミは語る。

 

「それに、定期的な魔物の間引きをお願いしていたパーティーが、実は、サボっていたことが、最近発覚しまして……」

「そんな冒険者がいるのか」

「はい、シンさんというリーダーのパーティーなのですが……」

「へっ?」


 横を見る。

 ミサは、なんだかあたふたした表情をしていた。


「す、すみません!! で、でも……えっ?」

「どうやら、仕事を請けていたことすら、ミサに話していなかったようだな」


 ワンマンなリーダーシップだな。

 それで、仕事を落としているようじゃ、底が知れるが。


「あ、そういえば、ミサさんは、シンさんの」

「えっと、その……」

「今のミサは、一時的にシンのパーティーを抜けた身だ。今回引き受けるのも、ミサ個人への依頼としてもらおう。そうすれば、俺はいくらでも力を貸す」


 俺たちが魔物達を退治した功績をシンのやつに掠め盗られるのは癪だからな。

 その後、地図上で、魔物退治の場所や、大まかな魔物の種類や退治の目安等を確認した後、俺たちは出発することになった。


「え、えっと……気をつけて、下さいね」

「ああ、ありがとう」

「そのシュヴァルさんって、怖いけど、結構……」

「なんだ?」

「いや、なんでもないです!!」


 こうして、俺達とミサは、街道の魔物退治に出発することになったのだった。

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