第22話 受付嬢

「うぅ……頭がぁ……」

「何バカな事やってるのよ」


 と、魔物に洗脳でもされかかっているのかという状態のルーミの元へ、また、一人同じ制服を着た女性が現れた。

 今度の女性は、とびきり美人だ。

 くたびれた印象のルーミは違い、パリッとノリの利いた制服を身に纏い、セミロングの金髪は良く手入れがされていて、サラサラだ。

 現代風に言うと、キラキラ女子って感じだろうか。

 その美しさは、嗅覚のないゴーレムにも、なんだか良い匂いがしているような気分になるほど。 


「キリカさん」

「ミサちゃん、ありがとうね。この娘、また仕事中に逃げ出そうとしていたの」

「せ、先ぱーい。だ、だってぇ……」


 涙目で反論しようとするも、論理的な反論が一切出てこないところを見ると、やはりただのサボりなのだろう。


「ほら、シャキッとしなさい。今日のノルマの達成率は?」

「あ、斡旋が3件中……まだ、0件です」


 それを聞いて、はぁ、と嘆息するキリカさん。

 すると、視線がゴーレムの方へ向いた。


「ところで、あなた新人さん?」

「いや、少し見学に来ただけだ」

「そう?」


 屈強な鎧姿の男が、こんな事を言うのだから、訝しく思うのも当然だろう。

 ましてや、子持ちだしな。

 彼女は、何か熟考するようなそぶりで「うーん」と唸ると、ポンと手を叩いた。


「ねえ、どうせなら、今すぐうちで冒険者になっちゃわない?」

「えっ……」


 いきなりだな。


「今、ギルドは人手不足なのよ。あなた、腕は立ちそうだし、手伝ってくれるととても助かるんだけど」

「いや、しかし、俺は……」


 戸惑う俺を他所に、キリカさんは、ルーミの肩を抱くと、こちらから背を向けるような形で耳打ちした。


「この騎士さんを冒険者登録させて、クエストに送り出したら、ノルマの件考えてあげてもいいわ」

「え、え、でも……」

「あら、じゃあ、今からパーティーを3組探して、仕事を斡旋する? もう、真面目な冒険者達は仕事に出ているから、ギルドに残っているのは、昼間からお酒ばかり飲んでるような、不良冒険者ばかりだと思うけど」

「う、う、わ、わかりましたぁ……」


 いや、全部聞こえてますけども、ゴーレムの聴覚機能には。

 先輩に新たなノルマを課せられたルーミは、肩を落とし、涙目のまま、乳母車の方を眺めた。

 そして、何の悩みもないように、すやすやと眠る俺の姿を見て、彼女は呟いた。


「ああ、私も赤ん坊に戻りたい……」

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