第19話 ラッキースケベはダメです
階下へ降りると、ちょうど牛乳配達でも来たのか、大きめのビンに並々と注がれたミルクを抱えた店主が、店の裏手から入ってきたところだった。
「ちょうど良かった。女将よ。ミルクを譲ってはくれないか?」
「ああ、昨日の赤ん坊かい?」
恰幅の良い肝っ玉母ちゃん風の女主人は、ビンを荷台の上に多くと、ふぅ、と額の汗を拭った。
「別に構いやしないけどね。赤ん坊に牛の乳を飲ませるのは、あまり感心しないね」
「そ、そうなのか……?」
「ある程度成長してからなら大丈夫だろうけど、まだ、あの子3カ月くらいだろう? 下痢になっちゃうんじゃないかね」
ううむ、確かにそれは困る。
というか、今までおしっこばかりだったが、当然便も出るわけだよな。
やはり、早々におむつを大量に用意しておかないと。
「弱ったな。母乳を飲ますというわけにもいかないし……」
「えらく若い娘さんだったけど、母乳は出ないのかい?」
「いや、ミサはあの子の母親では……」
瞬間、ミサが自らの乳房で、ネムに母乳を飲ませている姿を想像してしまう俺。
いかんいかん!! 何を考えてるんだ、俺は!!
「ふむ、色々訳ありなんだね」
客のあれこれについては詮索しないようにしているのか、興味を無くしたように被りを振った女主人。
だが、一瞬天井を見つめて、何やら考え込んだかと思うと、こう呟いた。
「ちょっと待ってな」
「えっ?」
女主人は、カウンター側に回ると、そのままミルクの入ったビンを持って、店の奥へと引っ込んでいった。
言われた通りしばらく待っていると……。
「はいよ。待たせたね」
そう言いながら、再び姿を表した女主人が持っていたのは、少し形は違うが、俺の世界で言う哺乳瓶のようなものだった。
口に当てる部分はゴムではなく、ストローのような飲み口がついており、軽く布でグルグル巻きにされている。
「牛乳に砂糖と蜂蜜を混ぜて、煮詰めたもんさ。時間がなかったんで、ほんの少しだけどね。これなら牛乳をそのまま飲ませるよりも、多少はマシだろうさ」
「良いのか?」
この世界での砂糖や蜂蜜の相場は知らないが、安い物でもなさそうだが。
「また泣かれて、他の客から苦情が来るのも困るんでね。古いもんだし、容器も返さないでいいから」
そう言いつつ、ほら行った行ったと手を振りながら、そそくさと自分の仕事に戻る女主人。
嘯いてはいるが、おそらく善意でしてくれているのだろう。
「恩に着る」
深々と頭を下げた俺は、反転してスキップで部屋へと戻った。
いや、この街の人も捨てたもんじゃないな。
「すまん。待たせた!!」
意気揚々と部屋へと戻った俺は、勢いよく扉を開ける。
しかし、そこには……。
「あっ……」
「あっ……」
目が合った。
上半身の衣服を今まさに脱ぎ終わったばかりのミサと。
プルンと揺れる豊かなたわわ。
その健康的な膨らみに、自然とゴーレムの視界がズームモードになる……って!!
何してんだ、俺!!
本体が半ば寝ているので気づいていなかったが、どうやらミサは俺のおしっこで汚れてしまった服を取り替えようとしていたらしい。
特製ミルクを待つ間に少し遅くなってしまったせいだ。
あー、もう何やってんだ俺!!
見てはいけないと思うのに、吸いついたようにその一点……いや、二点から目を離せない。
さっき女主人の言葉で、変な想像をしてしまっているせいもあってか、むくむくとイケない衝動が……。
く、くそ、こうなったら……!!
──プツン
「えっ、あっ、シュヴァル様!?」
俺は、自分自身のスケベ心から逃れるために、あえてゴーレムとのパスを断ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます