第15話 彼女の価値

「おい」


 突然、やってきた鎧姿の巨体に、戦士や魔法使いがギョッとした表情を浮かべる。


「な、なんだ、テメェは……?」

「事情は知らぬが、仲間でよってたかって、一人を糾弾している姿は、見るに耐えない」

「ああ? いきなりやってきて、何言って……って、赤ん坊?」

「えっ、えっ? シュヴァル様?」


 背後からやってきた俺の存在にようやく気づいたらしいミサが目を見開いている。

 俺は、そんな彼女の頭をポンポンと安心させるように叩いた。


「あんた、ミサの知り合い?」

「お前達の言う古戦場から、街まで案内してもらった仲だ」

「は? あんた、あんなところにいたっていうの? 嘘も大概に・・・」

「証拠だ」


 俺は無造作に、机の上に小袋を投げ出す。

 落下の勢いで僅かに顔をのぞかせたのは、柘榴色をした綺麗な石。

 そう、ゴーレムのコアとなる魔石である。

 魔物達の心臓部である魔石を無加工品とすれば、こちらは人間の手の入った特殊なものだ。

 古戦場に放置されていた朽ちたゴーレムの中から、いくつか拝借しておいた。

 そのままでは使えないほどの経年劣化っぷりだったが、地道に研磨し、狩った魔物達の魔力を込めて、それなりの性能までは復元させた。

 もっとも、元の性能を考えると、10分の1程度の魔力量しかないだろうが。


「えっ?」

「道に迷った挙句、しばらく古戦場で暮らしていた。これはそこで拾ったものだ」

「なんで、そんなものを……」

「手切れ金代わりだ」


 ミサの肩に手を置きながら、俺は言った。


「ミサを引き取りたい」

「はぁ?」

「いきなりやってきて、何を言いやがる」


 ローシュという名の男が激昂する。

 前世の俺なら、こんなチンピラ風の男に詰め寄られたら、チビってしまったかもしれないが、今はそれほど恐くは感じなかった。

 本体ではなく、ゴーレムの身で対峙しているからだろうか。

 何にせよ、俺は高い視点から、彼らを睥睨した。


「どうせ彼女を放逐するつもりだったのだろう?」

「それは・・・」

「あいにく、それ以上値打ちのありそうものは持ち合わせていなくてな。彼女の価値を考えると、全く釣り合っていないのは、重々承知だが」

「この女の価値だって?」


 ちゃんちゃらおかしいというように、男が笑う。

 釣られるようにして、他の仲間達も、一斉に笑い声を上げた。


「こんなどんくさい女のどこに価値がある?」

「戦いでも、探索でも、この娘、まるで役に立たないのよ」

「ふふっ、あなたは知らないのでしょう。この娘の無能さを。ねぇ、シン」


 一人、冷めた目で、状況を眺めていたシンも、僧侶風の女の言葉に黙って頷いた。

 彼のそんな態度を見て、ミサは再びショックを受けたように、項垂れた。

 抱いた肩から、彼女の震えが伝わってくる。

 ……怒髪天を衝くとはこのことか。

 今すぐにでも、ゴーレムの力でこの連中を殴り倒してやりたい。

 だが、そんなことをすれば、迷惑を被るのはミサだ。

 猛る想いをなんとか鎮める。


「お前たちが、彼女の価値を理解していないのは、よくわかった」

「おっさん。逆に聞くが、この女のどこに価値があるっているんだよ?」

「それは……」


 言葉に詰まったのは、俺が感じている彼女の素晴らしさが、簡単に言葉で言い表せることではなかったからだ。

 俺自身を抱きあげてもらった時のあの暖かい感情が、胸に満ちる。

 そうだ。

 彼女の良さを一言で表すならば……。

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