第13話 赤ん坊の性

「ばぶばぶ(ふぅ)」


 あてがわれた部屋に辿り着くなり、俺はゴーレムとのリンクを一旦解除して、人心地ついていた。

 何かしら負担があるわけではないが、やはり長時間意識を二つに分けているようなものなので、精神的な疲労はある。

 こちらの身体はまだ碌に動かせないので、ただただボーっと、見慣れない天井を見つめた。


「ばぶ?(むっ?)」


 その時だった。

 下腹部の辺りから、それまで感じた事のなかったムズムズとした感覚が……。


「ばぶぶぅ?(これはまさか?)」


 そう思った次の瞬間には、じわりとした気持ちの悪い感覚が下半身に広がった。

 ……どうやら、俺は粗相をしてしまったらしい。


「おんぎゃー!!」


 自分の意思とは裏腹に、豪快に泣き出してしまう俺。


(これはいったいどういう事だ……?)


 今まで、この赤ん坊の肉体は、尿意など感じることはなく、ただただ寝てばかりだった。

 人間としての当たり前の生命活動が極めて少なかったのだ。

 それが、突然、尿意など催した。

 それどころか……。


 ぐぅー。


「おんぎゃああああああ!!!(えっ!?)」


 お腹が鳴った?

 これまで、一切食欲なんて湧かなかったのに、今は無性に何か食べたくて仕方ない。

 いや、食べたいじゃない。

 飲みたいんだ。あれを!! 


 ドンッドンッ!!(うぉ!?)


 隣の部屋からの壁ドンに思わずビクリとする。

 俺の泣き声のせいだ。

 なんとか泣かないように意識をしてみるものの、自分の意思に関して、泣き止むことができない。

 これが、赤子の性か。


「仕方ない」


 俺は、再びゴーレムボディに意識を繋ぐと、そそくさと乳母車を押して、宿を出たのだった。




「ふぅ、どうしたもんかな……」


 屋外に出て、しばらくすると、俺の本体である赤子の身体は泣き疲れたのか、再びウトウトとし出した。

 とはいえ、問題は何も解決していない。

 おしっこは服に付着したままだし、お腹だって減ったままだ。

 いつまた、大声で泣き出すかわからない。

 自分の身体だというのに、全く制御が効かない。

 これが赤ん坊というものか。

 幸い本体がこんな状態でも、パスで繋がっているゴーレムボディの方には今のところ影響は出ていない。

 だが、本体のムズムズとした感触と空腹感はきっちり共有しており、早めになんとかしないと今後どうなるかもわからない。


「代えの衣服とミルクを手に入れないとなぁ」


 しかし、ここは異世界の街。

 大抵の店は、日暮れと共に店じまいをしており、空いているのは酒場くらいのものだ。


「酒場……か」


 酒場に行けば、少なくともミルクくらいはあるだろうか。

 そう言えば、ミサは宿酒場に宿泊していると言っていた。

 先ほど、分かれたばかりだというのに、こんなに早く頼りにするのは流石に気が引けるが、背に腹は変えられない。


 「よし」


 ミサに協力を願おう。

 そう決めると、俺はそそくさと宿酒場を探して歩き出したのだった。

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