第11話 やっぱりこの太ももで盗賊は無理でしょ
河原で十分に休息を取った後、俺たちは街道沿いに街に向かって出発した。
「あの、その乳母車って私でも押せますか?」
先ほど魔改造っぷりを見てから、ミサは俺の作った乳母車に興味津々らしい。
ふふっ、当然だろう。
ゴーレム同様、三ヶ月も古戦場の資材でアップデートし続けてきたのだ。
大いに自信がある。
「押してみるか?」
「は、はい!! 是非!!」
というわけで、ミサに乳母車を押させてみる。
しかし……。
「ぜ、全然動きません……!!」
だろうな。
装甲を厚くしたり、武器を内臓させたりするうちに、かなり重たくなってしまった。
それでも、このパワー全振りのゴーレムボディなら、さほど問題はないのだが、冒険者とはいえ、特別力のステータスが高くないミサには、どうやら動かすことができないようだ。
「代わろう」
ミサからハンドルを受け取って、再び押し始める。
スルスルと進んでいく乳母車を見て、ミサは感心したような表情を浮かべた。
「シュヴァル様は、凄く力持ちなんですね」
「力にはそれなりに自信がある」
ゴーレムだから当然だ。
反面、触覚が弱い分、繊細な動きは苦手なんだが。
俺以外が動かせないのも不便だし、そのうち十分な資材が手に入ったら、軽量化や自走機能の取り付けもしないとな。
「ところで、ミサ」
「なんでしょうか?」
「この街道には、随分と魔物が多いんだな」
「えっ?」
ゴーレムに搭載された魔物感知機能には、既に数十の魔物が検知されている。
姿が見えないところを見るに、背の高いススキっぽい植物の陰に隠れているのだろう。
さっきもゴブリンが現れたし、街道といっても、魔物の少ない安全な道というわけではないのかもしれない。
俺が魔物がいるであろう場所をいくつか指差すと、ミサは目を瞬かせた。
「シュヴァル様、よくわかりますね。私、索敵スキルを持っているのに、気づきませんでした」
「気配には敏感なんだ」
実際は、ゴーレムのセンサーで、魔物の心臓部である魔石を探知しているだけだけどな。
しかし、アーカイブにも記述があったが、この世界にはやはりスキルというものがあるらしいな。
もっとも、このゴーレムのボディでは、たぶん使いようがないのだが。
「おそらくゴブリンだ。あの辺りを通れば、襲いかかって来るだろう」
「わ、わかりました」
覚悟を決めたように、ミサが腰に提げていたダガーを抜いた。
「ここは、私にお任せ下さい」
おっ、どうやら、ゴブリン達の相手は、ミサが務めてくれるようだ。
力任せの戦い方しかできない俺は、彼女の戦い方に正直興味があった。
一体、盗賊っていうのは、どんな戦い方を見せてくれるんだろう。
「シュヴァル様は、ネムちゃんを」
「ああ」
俺にネムの警護を任せると、ミサはジリジリと魔物が隠れている辺りに歩を進める。
すると、あるタイミングで、1体のゴブリンが勢いよく飛び出した。
わかっていたはずなのに、一瞬、ビクリとするミサ。
だが、強くダガーを握ると、そのまま突き出した。
「えぇい!!」
「ぐぎゃっ!?」
待ち構えられていたことに驚きながらも、ミサの攻撃をゴブリンは間一髪で
え、あれ、遅くない……?
あのタイミングなら、よほど遅くなければ、確実に仕留められるはず。
「わわっ!?」
初撃を外したミサは、そのまま、地面に頭から倒れ込んだ。
安産型の大きなお尻が、食べて下さいと言わんばかりにゴブリンの眼前に晒される。
見かねた俺は、尻にかぶりつこうとしているゴブリンを大剣を無造作に振るって、吹き飛ばした。
「おい、大丈夫か?」
「うぅぅ」
強かに地面におでこを打ちつけたらしい彼女は、涙目ながらも、大丈夫ですと頷いた。
と、そこに、さらに3体のゴブリンが現れた。
仲間の弔い合戦とでもいうつもりか、興奮状態で、棍棒を振り回している。
「こ、今度こそ!」
「お、おい……!」
名誉挽回のつもりか、ミサが再びダガーを構え、ゴブリン達に向かって駆け出した。
遅い。
鈍足オブ鈍足だ。
走る度に、内腿の肉が擦れて、ぶるんと揺れている。
うん、やはり、この太ももで盗賊は無理でしょ。
「ああっ!!」
しまいには、ゴブリン達の元へと辿り着く前に、自分でコケた。
尻を突き出して、地面に突っ伏すその姿には、同情を禁じ得ない。
ゴブリン側ですら、あまりのドジっぷりに、かえって警戒しているような有様だ。
「う、うぅ」
間違いない。
この娘。
(ポンコツだ)
ドジっ子というやつだな。
いや、確かにそんな雰囲気はあったが、まさか、ここまでとは。
一体、今までどうやって冒険者、ましてや、盗賊なんてやってきたんだ、と疑問に思えるほどに、彼女はへなちょこすぎだった。
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