第10話 魔改造乳母車

 小休止を挟みつつ、森の中を4時間ほど歩き続けていると、やがて、視界が一気に開けた。


「ほう……」


 見渡す限りの草原。

 どうやら、山間から平野の辺りに出てきたらしい。

 この世界に季節があるのかはわからないが、日本で言えば、今は秋口くらいになるのだろう。

 少し背の高いススキのような植物が、びっしりと生え広がり、太陽の光を反射して銀色に光っている。

 向かって左手の方へ視線を向けると、森の奥から流れてくる小川とそこにかかる橋が見えた。


「あれが街道です!! ここまで来れば……」


 ホッとした様子のミサ。

 土地勘のない俺にはさっぱり分からないが、彼女にとってはようやく生活圏に戻ってきたという実感があるのだろう。


「ここから街道沿いに歩けば、街にたどり着けます」

「夜までには着けそうだな」

「はい!」


 そのまま小川にかかった橋の辺りまで辿り着くと、俺達は一度休むことにした。

 ゴーレムボディの俺は、いくら歩こうが内蔵された魔力を消耗するだけで、疲労を感じることはないが、ミサは別だ。

 小川の縁に腰を下ろした彼女は、ブーツをゆっくりと脱ぎだす。

 むっちむちの太ももが、ブーツという拘束具から開放されて、ブルリと振るえた。

 いや、エッチすぎる。

 そのまま、川の縁まで腰をずらすと、妙に艶めかしい仕草で、両足を川の水に浸した。


「あー、冷たくて気持ち良い……」


 恍惚とした表情を浮かべるミサ。

 逆光を受けて、キラキラと輝く湖面と流れる金髪が、得も言われぬほど美しい。

 まるで、絵画のようだ。

 そんなことを思いつつ、眺めていると、ミサがこちらへと視線を向けた。


「シュヴァル様もどうですか? とても気持ち良いですよ」

「いや、俺は遠慮しておくよ」


 嬉しい誘いだが、このゴーレムボディには、流れる水の冷たさを感じられるような触覚はないからな。

 それに、鎧の下にあるのは、武骨なゴーレムの骨格だ。

 脚だけとはいえ、晒せるもんじゃない。


「もうしばらくそうしているといい」


 俺は俺で、ミサが気持ちよさそうにしているのを見ているだけでも休息になる。

 そんな事を思っていたその時だった。


「シュヴァル様!!」


 こちらを見ていたミサが、急に慌てて声を張り上げる。

 あー、どうやら、あいつら・・・・の存在に気づいたらしい。


「ゴブリンです!! ゴブリンがネムちゃんを……!!」


 木陰に置かれた乳母車の方を指さして、ミサの顔が蒼白になる。

 少し前から、コソコソと奴らは、ネムを狙っていたらしい。

 やはり、人間の赤子というのは、ゴブリンにとっては、相当のごちそうのようだな。

 ミサに気づかれたのを察知したゴブリン達は、コソコソ移動を止めて、乳母車へと駆け出した。


「シュヴァル様!! 早く!!」

「大丈夫だ。見ていろ」


 俺は背後を振り返るまでもなく、飄々とそう言った。

 直後の事だ。

 乳母車の前面下部が展開し、砲身がゴブリンたちを捉えた。


発射ファイア


 俺の指示で、砲身から大量の鉛玉が放たれる。

 断末魔の叫びをあげる間もなく、ネムを攫おうとしていたゴブリン達は、穴だらけになって絶命した。

 ふむ、思ったよりも上手く行ったな。

 名付けて、速射破壊弾とでもしておこうか。


「な、な、何ですか、それぇええええ!?」

「ネムの安全のために、色々と仕込んである」


 三か月もあったのだ。

 アーカイブを参照して、乳母車には色々と小細工をさせてもらった。

 

「シュヴァル様って、何者ですか……?」

「ただの子連れの旅人だ」

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