第7話 猪肉を食らう娘を眺める

「すまないが、俺の国では、男は一緒に食事をする女性よりも先に食べてはいけないというルールがあってな」

「そうなんですか?」

「ああ、だから」

「わかりました。では、先にご相伴に預かります」


 調理したのはほぼほぼ彼女なので、ご相伴も何もないのだが、丁寧に会釈をすると、彼女はゆっくりと自分の椀をあおった。

 暖かいスープを静々と一口含んだ彼女は、身悶えするように身体を震わせた。


「ん-、美味しい。猪肉の旨味が良く出てます」

「ああ、確かにな」


 彼女が自分の椀に集中しているうちに、飲み干した体で、スープをしれっと鍋へと戻す。

 さらにしれっと。


「身体が温まる」

「ですよね。野営では身体を温めることも大切な事ですし」


 そのまま、なんとなくの空気で食事がスタートした。

 といっても、俺は食事を摂ることができないので、隙を見て、鍋にスープを戻したり、鎧の下に猪肉焼きを隠したりするだけだ。

 せっかく彼女が調理してくれたものを味わえないのは忍びないが、こればっかりは仕方ない。

 いつか、このゴーレムにも食事を摂る機能をつける必要があるな。

 このゴミ山の資材だけでは、とてもそんな改修できそうにないが、環境が整えば、挑戦してみるのも悪くない。

 アーカイブにはゴーレムの改造に関する知識も豊富にあるしな。

 そんなことを考えているうちにも、鍋の中身はいつしか結構減っていた。

 食には執着があるのか、彼女は黙々とひたすらに猪肉を頬張っている。

 はふはふと一生懸命食べている姿を見ていると、なんだかこちらまで幸せな気分になってくる。


「す、すみません! 私ったら!!」


 俺の視線に気づいたのか、彼女は恥ずかしそうに口元を隠した。

 大方、俺が食材を用意したのに、たくさん食べてしまっているのを申し訳なく思ったのだろう。


「構うことはない。俺は生来小食でな。君にたくさん食べてもらえる方が助かる」

「小食なんですか……?」


 言わずとも、文頭にそのなりで? という言葉が付いているのが分かる。

 ゴーレムの身体は、バスケットボール選手程度にはでかい。

 この身体で小食と言われても、首をかしげてしまうのも当然だろう。


「身体の大きさは遺伝だ」

「あ、いえ、別に、その……」

「いいから食べてくれ。ほら、まだ串もあるぞ」


 さりげなく、自分の分の串を相手に渡す。

 一瞬は遠慮がちな視線を向けたミサだったが、食欲には抗えなかったのか、その後は言われた通りに、モグモグと食べだした。




「ふぅ、お腹いっぱいです……」


 パンパンに張ったお腹をさすりながら、ミサが天を仰いでいる。

 実質、俺の分の猪肉焼きとスープも食べたので、ほとんど全て彼女が平らげたと言っていい。

 なかなかの大食漢……いや、大食娘だな。


「なんだか、思ったよりも量が多かったですね」

「そうだな。満足したか?」

「はい、野外でこんなにご馳走をいただけるなんて、思ってもみませんでした」


 冒険とやらで、日々野営をしている彼女がこういうのだから、猪肉というのはそうありつけるものでもないのだろう。

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