第3話 俺がお前でお前が俺で

 さて、一人でゴミ山に置き去りにされ、死を覚悟したあの日から、およそ三か月の月日が流れていた。

 今では、立派な乳母車もあるし、雨風を凌ぐための簡単な小屋だって建てた。

 いや、赤子の身でどうやって、と思うかもしれないが、俺には唯一にして強力な協力者がいたのだ。

 それが、あの日見つけた人形だ。

 赤い瞳をした、古ぼけた機械人形は、どうやら大昔の技術で作られたゴーレムという存在らしかった。

 俺は、そのゴーレムと魔術的なパスを繋ぎ、まるで自分自身の手足であるかのように、ゴーレムボディを扱えるようになった。

 最初はボロボロで、なんとか動ける程度、という状態のゴーレムだったが、近くにあった他のゴーレム達の残骸から、使えそうなパーツを選りすぐり、自ら修復を繰り返していくうちに、元々のスペックとはいかないまでも、かなりの性能を取り戻すことができた。

 あの最悪の状況下にあって、このゴーレムとの出会いは、まさに奇跡と言っていい。

 そのおかげで、なんとかこの三か月間、魔物達が跋扈するこのゴミ山で生き抜くことができた。


(とはいえ、それだけで生き延びられたわけじゃないんだけど)


 すやすやと眠る自分の横顔を、ゴーレムの視覚で確認しながら、その異常さを改めて感じる。

 というのも、俺の本体であるこの赤子の肉体は、三か月もの月日が流れたというのに、全く成長していなかった。

 いや、それどころか、人間として当たり前であるはずの、食事や排泄すらしていない。

 唯一普通の赤ん坊と同じであるのは、ほとんど寝ている、というところくらいだろうか。


(最初は、ヤギ乳やらをなんとか手に入れて飲ませようとしたけど、全く受け付けなかったものな)


 身体の成長に必要な栄養を欲しがっていない。

 自分の身体ゆえに、自分でもそれがわかった。

 何せ空腹を感じないのだ。

 そもそもゴーレムとパスを繋げることすらも謎だ。

 この世界では、普通の赤ん坊でも、そんなことができるのだろうか?

 いや、出来ないんじゃなかろうか。

 どうやら、俺は規格外の赤子。

 そして、規格外ゆえにこの世界の両親に捨てられた。

 そう考えれば、諸々の辻褄は合う。


(何にせよ。もっとこの世界について知らないと、何とも言えないな。こいつの"アーカイブ"だけじゃ限界がある)


 ゴーレムの頭をコンコンと叩く。

 こいつの頭には、パソコンで言うところのハードディスクのようなものが内蔵されており、この世界についての大まかな知識はそこから学ぶことができた。

 もっとも、さすがにずっと雨ざらしで放置されていたものなので、内容の欠損は著しく、こいつの製造理由やら何やらについての理解を得ることはできなかったが。

 と、その時、先ほど倒したゴブリン達の身体が淡く明滅し出した。


(おっと、うっかりしていた)


 俺は、ゴーレムのボディの腕を掲げる。

 すると、ゴブリンたちの身体から、真っ赤な水晶のような物が飛び出した。

 これは、いわゆる魔石というやつで、魔物達の心臓のようなものだ。

 魔力的なエネルギーが貯蔵されており、このゴーレムボディはこの魔石の力で動いている。


(いただきます)


 手の平にあるエネルギー吸収用の宝玉から魔力を吸い出す。

 ゴブリン五体分の魔力があれば、戦闘さえしなければ、4,5日は活動することができるだろう。 


(やっぱりボスっぽい奴の魔力は少し多めだったな。また、見つけたら積極的に狩っておこう)

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