第2話 子連れ騎士誕生

「すやー、すやー」


 真新しい乳母車の上、夕方の柔らかな陽の光を浴びながら、穏やかな寝息を立てる赤子。

 うん、俺だ。

 生後3,4カ月くらいだろうか。

 アッシュグレイの髪に、今は見えないが、琥珀色の瞳。

 ぷっくりとした頬は、我ながら、なんとも頬擦りしたくなるような愛らしさがある。

 見た目は完全に外国人だが、そもそもどうやらここは異世界というやつみたいなので、こんな容姿がスタンダードなのかもしれない。

 もっとも、まだ、俺以外の人間に出くわしたことがないのだが。

 さて、無防備な赤子が一人、こんなゴミ山にほったらかしにされていれば、どうなるか。

 ざくり、と草を踏む音と共に近づいて来たのは、餓鬼のような見た目をし、こん棒を持った化物。

 アーカイブにあった情報から検索するに、ゴブリンとかいう名の魔物だ。

 ヘドロのような体色をしたそいつらが五体、下卑た表情を浮かべながら、ジリジリと俺へと近づいて来る。

 ふむ、一体だけ少し身体が大きくて、体色も黄土色っぽい個体がいるな。

 初めて見たが、ゲームでいうところのレアみたいな存在なのかもしれない。

 陽が沈むにはまだ少し早いから、奴らも多少は警戒しているかと思ったが、まさかこんなのが釣れるとはな。

 心の中でほくそえんでいる間にも、奴らは"俺"との距離を詰めた。

 ボスらしきちょい大き目の個体が顎をしゃくるようにすると、残りのゴブリンのうちの一体が、赤子を取り上げようと手を伸ばす。


「悪いけど、"俺"に触れるのはNGだ」

「ギギッ!?」


 木々の間を縫うように、黒い塊が"俺"の前へと着地する。

 土煙が上がり、ゴブリンたちが驚いて、距離を取った。


「遅い」


 煙が晴れるよりも早く、一体のゴブリンの頭を、右手に持った大剣で真正面から貫く。

 そのまま横なぎしつつ、隣にいたもう一体を力任せに吹き飛ばした。

 うむ、随分パワーも上がってきたな。

 剣を振るった余波で一気に視界がクリアになった先では、残ったゴブリン達が青天の霹靂にでもあったような顔でこちらを見つめている。

 あいつらには、こちらが漆黒の全身鎧を着た騎士にでも見えているのだろう。

  

「この"身体"の調子も上々だ。さあ、かかってこい」


 挑発するように、指をクイッとさせるも、小柄な二体のゴブリンは逃げ腰だった。

 だが、ボスが、行けっとあごをしゃくると、ほんの一瞬逡巡した後、文字通り鬼のような形相で襲い掛かってくる。


「下っ端は辛いな。気持ちはわかる。だが」


 逆手に剣を構えた俺は、容赦なくそれを振り抜いた。


「"俺"に害を及ぼそうとする存在に、俺は容赦しない」


 上下真っ二つになった二体のゴブリンには目もくれず、俺は一回り大きいボスゴブリンに向かって飛び上がった。

 ボスゴブリンが下段にこん棒を構え、振り上げてくる。

 さすがにボスだけあって、腕力はなかなかありそうだ。

 だけど……。


「話にならん」


 技など欠片も無く、ただただ両の腕の力だけで、大剣を振り下ろす。

 ゴブリンが振り上げたこん棒は何の抵抗にもならず、真っ二つになり、唖然とした表情のまま、ゴブリンそのものも縦に真っ二つになっていた。

 圧倒的なパワーとスピード。

 三カ月間、アップデートし続けてきたこの"身体ボディ"の性能は、どうやらゴブリン程度ではすでに相手にもならないほどに高まっているようだ。

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