第2話 火曜市。そこは戦場。
あれはまだコロナが流行する前の話だったなぁ。
朝。リビングにある机に、手書きの地図が置いてあるのを発見した。あちゃ子が書いたのかな? しかしよく見ると字がうまい。
A4の用紙に四角の囲いがいくつも配置され、その隙間を縫うように赤い矢印が駆け抜けている。四角の囲いには野菜、肉、魚の文字。
なんだこれ? 起きてきたワイフに聞いてみる。
「ああそれ。今日は火曜市だから」
どうやらこの地図は買い物の作戦会議に使ったものらしい。あちゃの助は小さくてまだわかんないだろうから、あちゃ子に指示したそうだ。
「戦場に行くよ戦場」
子供達に言い聞かせるワイフ。ワシは驚いた。買い物というのは「ふんふんふ~ん♪」と鼻歌を口ずさみながらスキップして行くものだと思っていた。だが、主婦にとって買い物は戦場を意味するらしい。
「キミ達の活躍次第で夕飯のメニューがオムライスになる」「オムライス? やったー」
夕飯はオムライス宣言と百円のお菓子一個を報酬に出されると聞いて、テンション上がりまくりなあちゃの助。買い物♪ 戦場♪ とはしゃいでいる。ワシはその姿を見てから会社に行った。
仕事中に想像する。 開店と同時に店内になだれ込む勇者達。獲物をゲットする為には最短ルートで臨まなければ勝利はないのだ。
すまないワイフ。仕事終わりに電話して『今日の夕飯はなあに?』なんて呑気に聞いている裏でこんな戦いが繰り広げられているとは想像していなかった。
世の夫達よ。『主婦はいいよね。毎日家にいて家事だけしてりゃいいんだから』などと思わないでおくれ。主婦は買い物ですら戦っているのだ。良い物をお安くライバルよりも早く、愛する家族の為にその手を商品に伸ばしているのだから。
仕事中にLINEが来た。『勝った』その言葉と供に送られてきた写真。そこには戦利品と呼んでいい卵や牛乳、パン達がキレイに並べられていた。
ありがとうワイフ。あちゃ子。あちゃの助。今日の夕飯も楽しみだよ。
次の日。あちゃの助が絵日記を見せてくれた。恐竜であろう絵と供に書かれた文はこうだ。
きのうげんきになりました。おかしわ5こたべました。あといおんにいきました。ここわじごくでした。
じごく⁉ あちゃの助は火曜市で想像もできないような体験をしたようだ。
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