ああた家のひとコマ
ああたはじめ
第1話 これとこれ、どっちがいい?
選択、というのは実に難しい。男女でいると特にそうである。
例えば食事。男がレイディに聞くとしよう。
「夕飯何にする?」
「なんでもいいよ」
「ならラーメンにしようよ」
「ラーメンは昨日食べたからいい」
「それならピザはどう?」
「太りそうだからヤダ」
「じゃあお寿司は?」
「寿司って気分じゃないんだよなぁ」
「え。じゃあ何がいいの?」
「いや、なんでもいいんだけどさ」
じゃあラーメンでいいじゃん!
と、このように選択肢が自由にありそうで実はないことありませんか? 我が家でもけっこうあるんですよ。そういうシチュエーションが。
二人で服を買いに行った時の話である。
ワイフが散々迷った末に二つのスカートを持ってきた。
「これとこれ、どっちが良い?」
右手には茶色のスカート。左手には緑のスカート。どちらの色も落ち着いた印象で、お値段もサイズも同じだった。つまり、どちらの商品を決定するかは色で判別することになるのだ。
「う~んとねぇ……」
ウチのワイフは派手な色は好まない。落ち着いた茶色とか薄い肌色が多い。派手なピンクや黄色なんかほぼ持ってこない。今回は緑か茶色か、ってどっちも好みの色じゃないか。しかもどちらもワイフに似合う。びゅーてぃふぉーだ。これは……どっちがいいんだ?
両方買えばいいじゃん。という答えはない。ワイフは家計の事を考えている。一着だけしか買わないという決意がある。どちらかを確実に選ばなければならない。
ワシは自分のカンに頼り、緑を指した。
「こっちの方がワイフに似合うと思うよ」
「うーんそうかなぁ。茶色の方が良くない?」
ワイフは首を傾げながら鏡の前で服を合わせた。緑のスカートを棚に戻して、もう一着持ってくる。
また茶色ですやん。
今度は茶色VS薄い茶色である。ほんの少し色が薄くなっただけじゃん。全っ然さっきと変わらないんですけど! とプリプリしていてある事に気付いた。ワシはまた罠にハマっていたのだ。
「これとこれ、どっちが良い?」
またワイフは聞いているが、本当の意味はこうだ。
『私はこっちだと思っているけど、夫もそう思うよね。そうだよね』
と共感を求めているのである。フツーに自分の意見を述べては撃沈するのも当然なのだ。だが、しかし。わからん、わからんのよ。
どっちがワイフ推しなのか、ワシにはまったくわからんのだ。共感するにもワシはエスパーでもニュータイプでもないし。
だがワシは愛するワイフを悲しませるわけにはいかない。せっかく来たお買い物。楽しく過ごして良い気分で買い物を終えたい。
そこでワシは提案した。
「ワイフよ、ネコになってくれ」
きょとんとするワイフ。ワシは招き猫のポーズをした。要はこうだ。
両手で二着の服を持ってくるとして『どっちが良い?』と聞く時にはこっち! と選んで欲しい方を少しだけ上げて欲しいのだ。そしたら『こっち! やっぱね、ワシもこっちが似合うと思ったんだよ♪』と共感する事ができる。
それもう相談ですらないじゃん、なんて突っ込まれるかもしれないが、この招き猫作戦で我が家のショッピングは平和になった。
男は鈍感なんです。女の子の気持ちなんてまだ完璧にはわかっていませんもの。
結局、ワイフは最初に持っていた茶色のスカートを購入した。笑顔の妻を見れてワシは最高にハッピーだ。ルンルン気分でお喋りしながら帰宅した。
「そういえばさ、近所に高級なパン屋さんができたんだ。ネットでも紹介されたんだって。いくらすると思う?」
う~ん。高級やからな。少なくとも千円以上はするかもしれぬ。
「じゃあ千二百円で」
「えと、八百円」
しまった。この場合はお値段を安く言うべきだった。『そんなにお高くて高級なの? すごいお店だねえ』って話の流れだったのにやってしまった。ここでパン屋さんの会話がしょぼんと終わってしまった。招き猫作戦が発動できないものも存在するとわかってしまった出来事であった。
やっぱり、選択というのはワシには難しい。
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