第6話 終わりの国?
やはりオレの身体はまだ子供サイズらしい。
この世界の平均身長が前世より低め、という可能性も考えたが、集められていた兵士の服と思われる衣類はどれもこれも大きかった。
あるいは灰色のヒトが小さいのか。
森で暮らした五年間で遠目にヒトの姿を見たことは幾度かある。割と赤みがかった褐色の肌が多かった印象だ。地域性かもしれないが、ヒトの世界に行く気があまりなかったのは露骨に肌の色が違ったのが大きい。
どう考えても同族扱いはされないだろう。
着られそうな服の洗濯を川で済ませ、近くの木に干した後で、箱に入っていたものをチェックする。量的には風呂敷で包む必要すらない少ない荷物になった。
「時計だろうなこれは……」
まず金属の蓋がある懐中時計だ。
動いてはいない。中をこじ開けて文明の度合いを知れるような知識はないが、長針と短針、秒針がある。元カノのひとりがレトロなものを集める趣味があって、たしかリューズとかいう上のネジを回していたことを思い出す。
「……お、まだ動く」
十八時まで刻める。
これが地球と同じ理屈で作られたものなら、昼と夜、一日が三十六時間、ということだ。思い返せば、それくらい一日が長いような気もする。時計も泥まみれだったが蓋の裏には文字が刻まれていた。見たことのない形だが。
「読める気がするな、やっぱり」
星座、という意味の単語のように見える。
文字の上に日本語が浮かんで見えるというか、頭の中に意味が入ってくるというか、獣の暮らしの中では意識できなかったことだが、転生した人間はこの世界に順応できるようにそういう力を持つのかもしれない。
他には何冊かの手帳があった。
皮の表紙には『終わりの国』という文字が刻印されている。厚めの紙、統一された規格。そして背表紙に差し込めるような穴があり、鉛筆らしきペンが刺さっているものもある。
「終わりの国?」
尾張なら知ってるけど。
まさか織田信長が出てくる訳じゃないだろう。手帳の中の文字は書かれた文字が雨などでにじんだのかほとんどまともに読めない。
「人名……かな? これは」
表紙の折り返しに糸で縫われた文字があった。意味が浮かばない文字、読みとしてはロッツィ。男か女かもわからない。とりあえず手がかりにするか。手帳の中身はまったく読めないが、森でこれらを拾ったと言って終わりの国に行き、本人かその家族を探す。
大事なものなら恩人扱いで風呂ぐらいは?
風呂あるんだろうか?
そもそも言葉が通じるか?
考えても意味がない。
まずオレには名前すらない。
文化的なことを無視して前世の名前を名乗ることも考えたけれど、同じく転生しているはずの犯人にオレの存在を教えるようなものなので、できればだれかにこの世界らしい名前を付けてもらいたいものだが。
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