平等なんて、嘘だ

内藤晴人

スタートは、不平等

『天は人の上に人を作らず』だとか、『人は神の前では平等だ』とか言うけれど、絶対に嘘だ。

 なぜなら、この世におぎゃあと産まれた瞬間、生命がスタートしたその時から、すでにもうハンデがついてしまっているのだから。

 大富豪の子どもに産まれれば、余程のことがなければその後の人生は何不自由なく暮らせるだろう。

 反対に貧困層の子どもに産まれれば、人生は余程の努力と困難を伴うものになるだろう。


 じゃあ、一体自分はどうか。

 中流家庭に産まれたから、経済的にはまあまあ。

 けれど成績は中の下で、顔はお世辞にも可愛いとは言えない。

 運動神経に至っては皆無に等しい。


 一方、クラスメイトはどうか。

 成績優秀で、クラスで一二を争う美少女の栄子えいこ

 スポーツ万能で、性格もいい美好みよし

 

 天は二物を与えずなんて言うけれど、絶対に嘘だと思える。

 私は、そんなことを考えつつ深々とため息をついた。


「どうしたの? 背中丸めて」


 背後から声をかけられて、私は慌てて振り向く。

 いつの間にかそこには、史絵しえが立っていた。

 ぽっちゃり気味だが人懐こく笑顔が素敵な彼女は、首をかしげて私を見つめていた。

 だめだ。

 心配してくれている彼女でさえ、卑下の材料にしてしまう。


「どうしたの? 具合でも悪いの?」


「なんでもない」


 不安げに声をかけてくる史絵に、私は力なく首を左右に振って見せた。

 が、史絵は私に並びかけると、私の背を力強く叩いた。


「いや、嘘だな。その顔は普通じゃない」


 驚いて、私は史絵の顔をまじまじと見つめる。


「何で? 私、そんなひどい顔してる?」


 そんな私に、史絵はにっこりと笑ってみせた。


「あんたは、すぐに顔に出るんだもん。ちょっと付き合ってれば、すぐわかるよ」


 最悪だ。

 私はどうやら恥を顔に貼り付けていたようだ。

 こらえきれなくなった感情があふれ出し、涙がこぼれ落ちた。

 それを見た史絵は、びっくりしたように声を上げる。


「ちょ……、本当にどうしたの? 具合悪いの? 保健室行くなら……」


「違う、そうじゃなくて……」


 私は涙を拭いながら、それまで考えていたことを史絵に話した。

 史絵はうなずきながら話を聞いていたが、私が話し終わるとおもむろに口を開いた。


「確かに神様がいたとしたら、不公平だよね。わたしも、栄子や美好見てると落ち込んでくるもん」


 でもね、と史絵は私の目を見て微笑を浮かべる。


「わたしは、あんたがすごいと思うし、見習いたいと思うよ」


「私を?」


 その言葉に、私は思わず目を丸くした。

 そんな私に、史絵はこっくりとうなずく。


「だってあんたほど真っ正直な人間、見たことないもん。絶対にすごいと思う」


 これって、最近ではちょっと珍しい長所の一つじゃない、そう言って史絵は笑った。


「それにいい意味で真面目だし、几帳面だし。ほら、わたしよりも、三つも良いところがある」


 不公平だよなあ、わたしには真似出来ない。


 冗談めかしてそう言う史絵を、私は無言で見つめる。

 私よりも人あたりが良く人気もある史絵が、まさか私をそんなふうに見ているとは思わなかったからだ。

 史絵の言葉は、更に続く。


「それにさ、みんな一緒だったらつまらないじゃない。『みんな違って、みんないい』って、昔の人も言ってるよ」


「……そんなものかな?」


 未だに複雑な感情を処理できずにいる私の背を、史絵は再び叩いた。


「そんなもんだよ。悩んでても始まらないよ」


 そう言い残すと、史絵はじゃあねとばかりに走って行ってしまった。

 そんな彼女の後ろ姿を、私はただただ見送るしかできなかった。


 やっぱり私は、史絵にはかなわない、そう思った。


     ─終─

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平等なんて、嘘だ 内藤晴人 @haruto_naitoh

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