第10話 村に来たよそ者(コナー視点)
僕の名前はコナー。リセイユ村に住む十二歳の子どもだ。
リセイユ村は凄い田舎で、平和だけど退屈な場所なんだ。だけど、ある日突然変な奴がやって来た。
「初めまして。隣に越してきました、ラルダです」
「ラルダか! いい名前だねえ。あたしはマギーだよ。よろしくね。長らく隣は人がいなかったんだが、これから賑やかになるね。ほら、コナー。あんたも挨拶しな」
「……初めまして。コナーです」
母さんに急かされて、そっと顔を出す。後ろから観察していたけど、挨拶はしないといけない。
「初めましてコナー。ラルダだ。よろしく頼む」
「……うん」
(変な喋り方だ)
わざわざしゃがんで挨拶してくれるあたり、良い人なのかもしれない。
こんなに綺麗な人、初めて見た。凄い整っている顔なのに、初めて見た時は男の人かと思った。それくらい凛々しい雰囲気だったから。喋り方も、なんだか男っぽかったし。だけど、間違いなく女だと聞いて驚いた。
「一人暮らしは初めてなんだってね?」
「はい。親離れするために、一人暮らしをしてみようと思って」
「そうかそうか! 立派な心掛けだね。応援するよ。何か困ったことがあったらいつでも頼っておくれ」
「お願いします」
すらっとした立ち姿は、絵になるくらいだった。田舎の平凡な家の玄関に立っているだけなのに、まるでお貴族様が来たみたいに輝いていた。
気になって観察をし続けていれば、ラルダは変わった奴だということがわかった。
「マギーさん。屋根壊れてるみたいですね」
「そうなんだよ。夫は出稼ぎに行っててね。しばらくは我慢だよ」
「よろしければ直しましょうか?」
「できるのかい!?」
「はい。はしごをお借りしても?」
女の人が屋根に上がるだなんて信じられない。母さんと並んで不安そうに見上げていたら、ものの数分で修理してしまった。
「いやぁ凄いねえ。こりゃたくましい」
「ありがとうございます」
只者じゃない雰囲気を感じ取ったが、僕の予感は的中した。
「助かったよ、ラルダ」
「いえ。お安い御用です」
これまたある日、行商のおじさんにお礼を言われているラルダを見つけた。何だろうと思って、おじさんに話を聞いたら、ラルダがぬかるみにはまった馬車を動かしてくれたらしい。
(怪力すぎる!)
屋根の修理と言い、荷馬車と言い、やることがどうにも男前すぎる。全然女の人っぽくないラルダは、村の中でも段々目立っていった。
「お荷物おもちしましょうか? 腰を痛めた? 良ければ私の背中を使ってください」
息を吐くように人助けをするラルダ。村に馴染むのに時間はかからなかった。
「野菜の収穫、ですか」
「ラルダは都会にいたんだろう。それならやったことはないと思ってね。試しにやってみるかい?」
「是非」
「そうこなくちゃ。コナー! ラルダにやり方教えるんだよ」
「わ、わかった」
いつも遠距離で観察していたラルダが隣にいる。凄い緊張してしまう。
「きょ、今日は大根だよ」
「大根か」
「野菜の収穫って、思ってるより力仕事だけど」
「問題ない。コナーも知ってるだろう?」
「えっ!」
まさか観察していたのがバレたのかとドキリと胸が高鳴ってしまう。
「屋根だってすぐ修理したんだ」
「あ、そ、そうだよね。うん。確かに」
びっくりした。だけど、屋根の修理ができたのなら大根の収穫も朝飯前だろうな。その予想はピッタリ当たって、いつも僕と母さんでかかる時間の半分以上の速さで、ラルダは収穫を終わらせてしまった。
「まだ引っこ抜く大根はあるか?」
「ううん。もう大丈夫……」
僕だって踏ん張ってやっと一個収穫できるのに、ラルダはいとも簡単に引っこ抜いていったのだ。
「……どうしてそんなに力持ちなの?」
「鍛えたからな」
「……もしかして、ここに来る前は騎士だったの?」
「………………似たようなものをやってた」
「わぁ……!」
どうりでカッコいいわけだ。最初は変な人だと思っていたけど、これなら納得だ。夜、母さんにラルダ……さんが騎士だったという話をしたら「どうりでたくましいと思ったんだよ」と笑っていた。
それからも、ラルダさんは困った人がいればすぐに助けていた。ある日、村の子ども達の面倒を見にやって来た。
「ラルダだ!」
「何しに来たんだ?」
「川は危ないから、様子を見に」
最初の僕と同じで、ラルダさんを警戒する子どもは多かった。気持ちはわかる。得体の知れない人だから。ラルダさんが騎士であることは、母さんに言われて内緒にしてる。勝手に話すことじゃないって言われたけど、確かにそうだと思った。
「何して遊んでいたんだ?」
「水切りだよ」
「よそ者にはできないよ!」
「そーそー」
「それはわからないぞ」
警戒され、挑発されても全く動じずに余裕のある返しをしていた。
「それならラルダもやってみろよ」
「できたら村のやつってみとめてやる!」
「無理だと思うけどな!」
「それは嬉しい話だな」
僕よりも小さい子どもたちが、さらに挑発をした。そんなことを全く気にしていないラルダさんは早速石ころを持つと、二回ほど手の上で投げてから素早く川へと放り投げた。
パッパッパッパッパッパッパッパッ!!
物凄い勢いで跳ねた石は、見えなくなるまで浮かんでいた。数えられただけでも八回はできていたと思う。
「「「すげえーー!!」」」
「意外とできたな」
子ども達が目を輝かせながら興奮していた。子どもの人気を獲得するのも成功したのだった。
いや、本当に凄い人が村に来たなと思う。
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