波立つ風景の中で

刻堂元記

波立つ風景の中で

燦々ときらめく光の束がカーテンのように降り注ぐ。

そこはどこかに存在する陸の上ではない。

どこかも分からない海の上で、波が揺らめくように動いている。



とても静かで水面に近づかなければ波の音は聞こえない。

空を魚のように泳ぐおかしな雲と、そのさらに下を飛ぶ鳥の群れだけが、

海の色を知覚している。

魚の見える半透明な水色とは程遠い、黒を混ぜたような深い青。

それが海全体に行き渡り、

明るい色をした蒼空とは対照的になっている。



それでも追いかけっこをするかのように、空と海は絶えず動く。

どちらがどちらを追いかけているのか。

いつの間にかそれすらも分からなくなっている。

風は知っているんだろうか。

雲を飛ばし、水の流れを変える風なら、あり得るかもしれない。



そんな風でも荒れることがある。

雲が大きくなり、溜まっていた水を吐き出す時だ。

そういう日には必ず、波が不機嫌になる。

そして、全てを飲み込むために、波は理性を忘れるのだ。



そうしたら誰も止められない。

黒くどんよりとした雲が白い顔になり、

空に平穏が戻るまで、

鳥の群れも、魚の大群もじっと我慢するしか方法はない。



しかし、いつまでも黒い雲が空を覆うことはなく、やがて蒼と白の世界が訪れる。

いや、正確に言うなら青と白が溶け込む美しい場所というべきだろう。



空の蒼さ、海の青さ、雲の白さ、そして、時節見られる波の白さ。

それらは、そこを象徴するかのように、互いに織りなし、

二度とみられないような風景を、少し、また少しと見せていく。



特に、雲と波が見せる動きは多様だ。

ゆっくり動くかと思えば、速く動くことさえも躊躇わない。

風の影響といったらいいが、それだけなのだろうか。

雲も、波も生きているかのように意思を持つ。

気まぐれな生き方がそうさせたのか。



だが、雲や波とは違い、空や海は荒れる時を除き、いつも穏やかだ。

そのためか、鳥の群れが一斉に鳴く声は、

ある種の喧騒となって、空に消え、海の底まで伝わる。

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