第2話
逃げるなら人ごみの方がいい。そう考えて繁華街まで脇目も振らずに走ってきた。
ここまで来たら安心だと一息ついたところで、女性の手を握ったままだったことに気づき、源太は慌てて手を離した。
「ご、ごめん。あの……大丈夫?」
「先程はありがとうございました。私は
小柄な体にセミロングの黒髪。その大きな瞳で見つめられると、女性に不慣れな源太の鼓動は早くなった。彼女のことや先ほどの騒動が気になり、眼の前のファミレスで話を聞く事にした。
奥の席に座り、コップの水を飲んで気持ちを落ち着かせると、紬はことの成り行きを語り始めた。
地方から出てきた紬は、親にマンションの費用は出してもらっているものの、食費などその他雑費が必要で喫茶店でアルバイトをしている。ただ東京は物価も高く、学業の合間のバイトだけではなかなか生活に余裕はできない。
「たまには友達のようにおしゃれがしたい」と常連のお客さんに愚痴をこぼしたのが切っ掛けだった。
世間知らずの紬は「いいローンがある」と教えられ、お小遣い程度のお金を借りた。それが間違いの始まりだったのだ。借りた先はヤクザのヤミ金融に繋がっており、常連の客は獲物を選定していた組員だった。
男の名前は
源太は砂糖とミルクが多めの甘いコーヒーを啜りながら紬の話を真剣に聞いた。自分に知識の引き出しが無いことを悔やみながらも、何とか力になれないかと頭をフル回転させる。
「あの……俺はバカだから詳しくは分からないけど、強引な取り立ては違反だと思うんだ。警察とか、ちゃんと相談するところあると思うから調べてみるといいよ」
「そうなんですか。怖くてそこまで頭が回らなくなっていました。脅されていたので友達にも相談できなくて……。都会でもこんなに優しい方がいるんですね」
「そうやってすぐに人を信じるのは悪いところだから。あ、僕はもちろん悪いことなんかしないけど」
「うふふ、そうですね。色々心配していただいてありがとうございます。あの、今はお金もなくて何もできませんが、このお礼は絶対させていただきますのでメッセージを交換させていただけますか?」
「もちろん。僕で良ければ相談にも乗るし」
源太ははにかんだ彼女の仕草を可愛いと思った。
*
(紬ちゃん警察に相談に行ったのか。うまく解決できるといいなぁ)
あれから源太の代わり映えのない日常は、ほんの少しではあるが、鮮やかな色を持ち始めていた。紬から来る相談や、何気ない会話のメッセージが心に癒やしをもたらしていたのだ。
紬の礼儀正しく育ちの良さを感じさせるところや、おっとりして控えめだけれど芯の強いところに好感を持った。
相談のメッセージが来ると、自分も役に立てているのではと嬉しくなり、思わず顔がにやけた。今日も同僚の清に顔が気持ち悪いとからかわれたばかりだ。
あの騒動の日に写真付きの入館証を無くしたことが気になっていたのだが、ヤクザが脅しに来ることもなく、次第にそれを忘れていった。
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