第19話 山県と雅史

 午後、雅史は山県議長に議長室へ呼び出された。


「田中です」


「入れ」


議長は雅史の後ろに付いて、後ろにたっていた監視員を見た。


「君らは下がってください」


「でも」


「心配はいらん」


「はっ!」


監視員は敬礼をし、出て行った。



「君にプレゼント」


議長は、薄い包を雅史に渡した。


「これは・・・・」


山村教官に取り上げられた、スケスケの赤いパンティだった。


「ありがとうございます。山県さん、分かっていらっしゃる。ははは、心憎い配慮ですね。痛み入ります」


 雅史から、自然に笑みがこぼれた。

聞いてはいたが、人の趣味、嗜好はいろいろあるのだなあ、と山県は改めて認識した。取り敢えず、喜んでもらって良かった。


「まっ、掛けて」


「はい」


嬉しそうな、無邪気な返事だ。この男がこの前の作戦を打ち砕き、南郷を大敗北に導いた張本人と同一人物とはとても思えない。


「う~む」


「どうかしましたか」


「君、田中くん。この前の南郷の拉致作戦を、どう思ったかね」


「はあ、そうですね。真っ昼間にザブザブと川を渡って、王女を攫いにくるなんて、ムチャですよ。すぐ見つかるし、その後の対応策も良くない。杜撰ずさんすぎる。でも、その後の裸女の作戦は、相手の弱点を突くいい作戦でしたね。はははは」


「うん」



 何を隠そう、その作戦は自分と伊藤参謀で練った作戦だったのだ。山県は何ともいえぬ、複雑な気持ちがした。

それにしても、この男、あっけらかんとしているが、理知的な分析もしている。

果敢な行動、平然と残虐な殺戮をし、その一方でパンティなんかもらって無邪気に喜ぶ。敵国の真っ只中での、軽すぎる振る舞い。

何なのだ、この男は・・・・。


「どうかしましたか」


「いや」


「せっかくだから、山県さんに聞きたいのですが」


「何でしょう」


「山県さんは、南郷をどうしたいと思っているのですか」


田中は、素朴に真っ正面から聞いて、いや切り込んできた。

日向ぼっこの、茶飲み話しでもするかのようにだ。


「そうだ、お茶も出さんで失礼した。お茶がいいかね、それともコーヒー、紅茶かな」


「日本茶を」


お茶が出て、給仕が出て行くまで話しは中断した。



 この先も、南郷の平和とか繁栄とかの表面的な答えでは、納得しないだろうと思えた。

望んでいるのは、もっと突っ込んだ答えだ。


「今の南郷の稼働兵力は・・・・」


呼び水を出してきた。


「5千、ムリすれば8千かな・・・・待て、これは重大な国家機密事項だ」


「ははは、だいたい想像つきますよ。国力もね」


「かなわんな君には」


「南郷のこの先のビジョンです」


「うむ、南郷は体制が出来て間もない。未だ、まとまってはいない。どうすればまとまるか、それは、外に敵を作れば簡単にまとまるんだ。

まず、南郷村に小さな核が出来たと考えてくれ。その周りにあった小さな集落を敵として、核は固くなった。その核は周りを取り込むごとに、強く大きくなってきたんだ。そのエネルギーが、田中雅史という壁にぶち当たったというわけだ。うん」


「買いかぶりですよ」


「いや、そうでもない。もし、戦闘状態が長引き泥沼の膠着状態となったらと思うとゾッとする。

ここだけの話しだ。君には感謝しているんだ」


「え~ホントぉ、とんでもない話しだ。裏切り行為でしょう」


「うむ」


議長は、苦い顔をした。

雅史はお茶で喉を潤した。


「しかし、歴史的にみると珍しいことでもありませんよ。歴史の表面の出て来る人たち、まあ、信長、秀吉、家康でもいいです、彼らリーダーと下の者、支配下の者たちとの齟齬そごはかなりありますからね。いや、歴史はその齟齬の連続と思いますよ」


「そうなのかね」


「そうです。歴史を知ることは重要なのですよ。『過去を知って、現在を鑑み、未来を測る』です」


「ほほう~」


議長は、まじまじと雅史を見た。


「何か?」


「いや、君、田中くん。お茶のお代わりはどうかね」


「はい、頂きます」


議長は、ポット、急須、茶筒セットを持って来るよう伝えた。


「山県さん、俺に事態収束に向けた提案があるのですが」


「うむ、聞こう」


それから、約一時間に渡り雅史と山県は、話しを続けた。


 

「田中さん、これからここの主要メンバーと秘密会議を開く、お疲れのところ申し訳ないが、田中さんも出席してもれえませんか」


「はい、喜んで。よろしくお願いします」


「良かった、では」


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