第17話 久慈裏川を挟んで

 午後3時、沙羅はランニングコースを走っていた。当然、衛兵もその後を付いて行く。久慈裏くじり川コースに差し掛かったところで、沙羅は立ち止まった。


「バカヤロー!。ヘンタイ田中―!、くたばっちまえー!」


突然、耳にキーンと響く怒声を張り上げた沙羅に、衛兵たちが驚いた。


「そうだー、ヘンタイー!。帰って来んなー!」


「南郷のクソ野郎、死ねー!」


「バカ南郷―、ヘンタイ返せー!」


後続していたソフトボールチームからも声が上がった。


「え~」と衛兵たちは、驚いている。


「綾、言葉使いが汚いよ。乙女なんだからさ~」


「あら、わたくしのこといえますかしら」


「うふ、そうね」


沙羅とソフトボールチームは、足音を立てて走り過ぎて行った。



 翌日も久慈裏川コースに差し掛かったところで、罵詈雑言が始まった。


「南郷のバカ野郎―、さっさとヘンタイを返せー!」


「クソ野郎―、死んじまえー」


「卑怯者―、桜井さんを返せー」


どうやらストレス発散になったらしく、言うだけ言うと沙羅たちは笑いながら走りさった。



 3日目、沙羅たちが久慈裏川コースに差し掛かったところで、突然キーンとハウリングの音がした。続いて『那珂のブスども、ええ加減にしやがれー』と大音量の声が響いた。


「くそー、山本、拡声器持って来い」


「いきなり、そんな事言われても・・・・」


『ざまあねえな、那珂のブスめらー。ツラ洗って、出直せー』


「くやしいー。何とかならないの」


「山本、どうにかならないの」


「明日までには、何とかします」


「うん、聞いた。今日は悔しいけど、撤収」


『やーい、ブス豚めら、尻尾を巻いて逃げ出すのか~』


「くぅ~」


沙羅たちは、耳を塞ぐようにして駆けた。



 翌日、久慈裏川コースに差し掛かった。拡声器持参だ。


「南郷の卑怯者―、キタナイ手ばかり使いやがって、恥を知れ、ヘンタイ返せー」


「クソ南郷ブス、南郷死ねー」


「貧乏南郷―、ひがんでんじゃねえぞー。残飯漁ってクソして寝てろー」


南郷も黙ってはいなかった。


『性懲りもなく騒いでんじゃねー。ブスー』


『ヘンタイはこっちのものだー、返さねーバーカー』


『肥え太ったメス豚がー、調子こいてんじゃねえぞー』


『ヤキ入れてやるからなー』


双方、罵詈雑言を投げつけると、何事もなかったように撤収した。



 その夜、沙羅に電話があった。


『馬鹿もーん!』


「あっ、お父さま」


『何やっとるのじゃ~』


「はい」


『王室のだな、品位がだな、台無しだな、なっちゃうじゃないかー』


「・・・・・」


『中央に転居だな』


「待って下さい、お父さま。今が重要な時です。今に、動きがあります。評議員として、この大事な時に五輪塔地区を離れることはできません。・・・・それに、今ここを離れたら、那珂国王女が尻尾を巻いて逃げちゃったと思われます」


『宇~む』


「自重します。もう、バカなことはしません。ここに置かせてください」


『うむ、しょうがないか・・・・、参謀長のいうことを良く聞くんだぞ』


「ありがとう、お父さま」



 翌日、沙羅たちはランニングコースを変更した。


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