第15話 南郷村連合国
南郷村連合国の庁舎の第1会議場は、ピリピリした空気に包まれていた。
今回の那珂国王女の拉致作戦が、完全な失敗。責任者たるべき主要メンバーは捕虜となり、トップの中隊長はあえなく戦死。南郷軍は潰走。
まさに、絵に描いたような負け戦だ。
総長、今会議の議長、
数々の陰謀、謀略、戦闘で南郷のマムシと
皆、資料に目を通したまま口をつぐんでいる。
「敗因は、田中雅史という男だな。なぜ、そんな男がノーマークだったのだ」
山県が口を開いた。
「それが・・・・」
「有り体に言え」
「ヘンタイでして」
「ヘンタイ?」
「田中は中央で何らかの不祥事を起こして、最下級の訓練生として五輪塔地区に飛ばされて来たのです。元A特務員とは、後で知りました。その田中が洗濯係の時、女性用の下着、赤いスケスケのパンティを見つけ、頭に被り仲間と一緒になって浮かれ踊っているところを見つかり、叱責。それから、懲罰人事で問題のある3年C組の担当にさせられました。それが、その問題クラスの生徒よりもさらなる大きな不祥事を引き起こして謹慎処分も受けています。
女性陣からは、ヘンタイ教師と
俺たちは、田中を単なる剣術バカとしか見えなかったのです」
「ふ~む、それは偽装工作ではなかったのか」
「いえ、とてもそんな風には見えませんでした。天然としか・・・・。それが突然、血に飢えた残虐非道な魔人に変身するなんて・・・・。五輪塔の者たちさえも、びっくりして恐れおののいていました。はい」
「ふ~む」
会議終了後、伊藤参謀が山県に呼ばれた。
二人は、長いこと話し込んでいた。
沙羅さま付きの衛兵、桜井が雅史の秘書官として付くことになった。辞令は受け取ったが、何となく釈然としないものがあった。そんな気持ちを見透かしたかのように、沙羅さまからの呼び出しがあった。
「桜井です」
「はいりなさい」
沙羅さまは、端然と座っていた。絵になる。憧れと敬意、そして不遜ながら妹のような親しみを持って、職務に勤励してきたのに。
「今まで、よく務めてくれました。感謝します」
「いえ、そんな・・・・なら」
「桜井を見込んで、頼みたいことがあるんです」
「・・・・・」
「田中雅史3号は、ああ見えて非常に重要な人物です。那珂国の命運を左右し兼ねない人物かもしれない。しかし、どこか危ういところがある。突然、ふら~っと居なくなってしまうような・・・・。そこで、頼みたいのです。しっかりとした人物を、監視役といったらおかしいかもしれませんが、お願いしたいんのです」
桜井はぼ~と沙羅を見ていた。
「何か?」
「いや、沙羅さまも立派になられて・・・・。那珂国全体の事を考えているとは」
「何言ってんですか、いつまでも子供じゃありませんよ」
「はっ、失礼を言いました」
「あははは」
「はははは」
「けっこう、長かったですね。何年になりますか」
「う~ん、4年ぐらいになりますか」
「そう、長い間ごくろうさま」
沙羅は頭を下げた。桜井は目頭が熱くなった。
「受けてくれますね。しっかり見張ってください。そして、報告は私か参謀長に」
「はい。承知致しました」
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