第14話 田中 雅史の評価


 ほどなく那珂軍が侵攻。南郷軍の宿舎前広場に整列し、勝鬨かちどきを上げた。

雅史はこの突発事態の対処を評価され、筆頭教官に抜擢された。

これは依頼でなく命令で、当然3C担任は解除、かろうじて日本史の教科だけはそのままとなった。



―南楽の座敷席―


雅史と小杉と黒田が、恒例の飲み会を開いていた。



「すごいね、また出世したね」


「いや、俺は元の方が良かったんだけど」


「贅沢言ってらあ、筆頭教官なんて望んでも叶えられない人ばかりだぜえ」


「ん~」


「まあ、下には下での悩みがあり、上には上での悩みがあるんだよ。なあ~」


「だけど田中さん、やる時はやるんだなあ。シビアだよ」


「うん、やらなきゃやられる。へんに情けをかけたり、躊躇ためらったりしたら自分も、そして味方も危うくなる。非情にならなくてはね。軍人なら、いつでも死は覚悟のはずだからね」


「これから、どうなりるのだえろう」


「那珂軍は、ほどなく撤収するだろうと思うよ。その後は南郷軍が来る。そしてまた、膠着状態が続く」


「南郷軍は、何で侵攻して来るのかな」


「それは那珂国の資源、工業製品、農産物、商品などが欲しいからだと思うよ。沙羅さまの拉致を企てたのも、身代金か侵攻を有利にするためじゃないかな。前から『草』、スパイだね、スパイを放って探りを入れてたんだよ」


「へえ~、そおなの」


「そうさ、あの監視櫓かんしやぐらからすきを狙っていたんだ」


「油断も隙もないね。何でかなあ、何で交易を通じて共存共栄が出来ないんだ」


「それは、南郷連合の総長に聞いてみないと分からないなあ。山県やまがた何とかというんだけど、独裁者らしい。南郷村出身で次々と隣接する村、町を接収していったらしいからね。奪い取ったといった方が正解かな。とにかく、独裁者、困った人物だよ」


「ふ~ん」


「それより、もっと飲みなよ」


「うん」


「小杉さん、最近はどうなの」


「う~ん、イマイチかなあ。俺、軍人に向いてないかも」


「う~ん、黒田さんは、どうなの」


「俺、今度昇進試験があるんだ。何かさあ、試合で勝つ方法なんてないかな」


「うん、試合に勝つ方法かあ。あのね、刀と槍では圧倒的に槍の方が有利なんだ。有効攻撃距離の違いなんだけど。もう一つ、切ると突くとの違い。切るって意外とダメージが少ないんだよね。相手動いているからね。それに防具を付けていれば、なおさらだ。昔、幕末の頃、井上かおるっていただろ。長州の明治の元勲だ。問題のある人だったんだか、そいつがね刺客の襲われナマスのように切り刻まれた。それでも生きていて、現場復帰したんだ。

でも、切られずに突かれていたらどうかな、きっと命は無かったのではないかな。

やっぱり、槍の方が有利なんだわ。試験も槍に防具だしね。槍の突きにしても、正確に90度で当てなくてはだめだね。何しろ相手は動いているし、少しでも角度がずれると滑るし流れる。理想をいえば、相手の打撃を滑らせ、相手の打撃と自分の打撃を合わせる。カウンターだね。『肉を切らせて、骨を断つ』かな」


「うん、そうかな。何かやれそうな気がする」


「うん、頑張って」


 

 五輪塔地区の庁舎、沙羅の居室を参謀長が訪ねていた。


「どうです。今回の田中3号の働きは・・・・」


「はい、見事です。果断な処理、命令、行動。完璧です」


「私も、3号の情け容赦のない残虐な殺戮を聞いて、震えが止まりませんでした」


「それで良いのですよ。戦の時は非情でなければ、使い物になりません。もともと兵士とは、命がけのものですからね。戦場で死ぬことは、本望であり名誉としなければ兵士とはいえないですから」


「そう・・・・」


「あとは、戦略面ですかね。戦術は完璧です。その上に戦略面ですね、課題は。奴は人の上に立つ気があるのですかね~。そのが少し心もとない。名プレイヤー、イコール名監督は、必ずしも一致するとはいえませんからね」


「課題はそこね」


「部下、秘書みたいな者を一人はり付けましょう。そして、しばらく様子見ですか」


 

 五輪塔地区の農道を初老の男が、のんびりと歩いていた。もう少し先には、農用に使うかやの密生した茅場かやばがある。茅場の先からは、若い男がこちらに歩いて来た。二人は、農道に誰も居ないのを確かめると、農道の死角になるところへと入っていった。


「これが、那珂軍を率いて南郷に攻め込んだ男の資料だ」


初老の男が、ふところから封書を出した。若い男が書類を確認する。


「ふ~ん、いい男だ。弱点、女・・・・?」


「うん、今はそれだけしか分からん」


 若い男は袋に入った重い物を、初老の男に渡した。

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