第9話 静香
21××年、最終戦争勃発、世界各国に核ミサイル核弾頭弾が乱れ飛んだ。その10年後、旧山形県、秋田県境に後の那珂国の前進となる小さな集落が出来る。
謹慎も解け、久し振りのホームルーム。
出席を取ると、けっこう元気な声が帰ってきた。ケガの功名か、乱闘騒ぎで3Cの結束が強まったらしい。
女子の部の中ほどに、点呼が進んだ。
「佐藤」
「・・・・・」
「佐藤
「は・・・・い」
「どうした。元気がないな」
雅史はつかつかと静香の席まで来ると、額に手を当てた。
「阿部さん、佐藤くんを保健室まで付き添ってあげて」
「あっ、はい」
静香は綾の肩に支えられ、教室を出た。雅史も教室を出た。
いくらも行かないうちに、二人は崩れ落ちた。
「大丈夫か」
雅史は駆け寄ると、ひょいと静香を抱え上げた。
「阿部さん。保健室の河本先生に急患と伝えてくれ」
「はい」
綾はパタパタと駆け出した。
静香は、雅史の胸に顔を埋めていた。胸がじんわりと温かい。涙が胸に沁みてきた。
「どうした。苦しいのかな」
「ううん」
静香はいやいやをした。
「うれしいの」
「いいのか~。僕はヘンタイ教師なんだぞ~。このまま、誘拐しちゃうぞ~」
「ははは、そうして~」
静香は、静かにベットに寝かされた。
「先生・・・・」
「何だい」
静香が雅史の手を握った。しなやかで、冷たい感触の手だった。
「ありがとう」
「何をいうんだ。しっかりしろ」
「うん」
静香は目を閉じベットに寝、点滴を受け、安静を言い渡された。
雅史は河本先生に促され、廊下へと出た。
「どうなんですか」
河本先生は、首を横に振った。
「大戦後、いろいろと除染作業は続いているけど、がけ崩れ、山崩れその他意外な所にも強い染料の破片、物があるのよ。知らない所へ行く時は必ず線量計を持てと、口を酸っぱくして言っても子供だとその重要性が分からない。甲状腺異常、白血球異常、あの子はかなりの被爆しいた。病院へ移送するけど・・・・」
「・・・・・」
雅史は言葉を失った。
その日の内に、静香は病院で息を引き取った。
次の日通夜が、翌日葬式が斎場で質素に行われた。
式が済み、雅史は畳敷きの別室に呼ばれた。そのには、静香の両親がいた。
「この度は静香が大変お世話になって、感謝申し上げます」
両親は深々と頭を下げた。雅史は言葉も無く、ただ黙って頭を下げた。
「これ、静香の遺書です」
母親が、封書を差し出した。
「拝見しても、よろしいのですか」
「はい」
そこには、闘病生活の苦しさや不安、やるせなさなどが書かれ、その中で家族での旅行の楽しい思い出も記されてあった。
最後に田中先生に出会い。心の底から笑い、楽しかったとあった。
これは、最後に神様が辛い闘病生活に耐えた『ご褒美』に田中先生を遣わされたと思うとあった。
ポタポタと涙が紙面に落ちた。
「あっ、大切な遺書を汚してしまって・・・・」
「いえ、いいんですよ。供養になります」
雅史は涙が止まらなくなった。
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