第3話 田中先生
毎週土曜日の10時から、重装備での薙刀に似た訓練用武器での試合がある。16人が一つのグループのトーナメント制で、1位と2位の者は昇格。最下位とムービーは降格となる。
雅史に敵対する者はおらず。雅史は週ごとに昇格していった。
それとは別に、雅史は中学3年C組のクラス担任、日本史担当になった。
初日、雅史が教室に入ると、ヤジに近い歓声が上がった。黒板には、パンティを被った輪になって踊る3人が描かれてある。
「ほほう~上手いね。あははは、上手だ」
雅史は黒板消しを取ったが「消すのは惜しいな。後で邪魔になったら消してね」と言い、3人の中の一人に矢印を書き田中雅史と書いた。
「田中雅史といいます。みんなの名はいっぺんには憶えられないので、おいおい憶えます。では、出席をとります」
3Cクラスは男女混合で、問題山積みクラスといわれている。始めから「わいわい」「がやがや」と私語も多い。男子15名、やんちゃ盛り、突っ張った感じだ。女子は16名、思春期特有の振幅の大きそうな雰囲気。特有の青っぽい、未熟な色気も垣間見える。
いわゆる、落ちこぼれ、掃き溜めといわれているクラスだった。
2日目、雅史が3Cの教室に入ろうとすると、引き戸に不自然な隙間がある。『ははぁ、幼稚な黒板消しのイタズラだな』と思った。
雅史はガラリと引き戸を開けるや、50センチぐらいの棒で器用に受け止め、そのままポンポンとリフティングしながらチョークの粉を生徒に降りかけた。ますで、曲芸を観るような事態に歓声と怒号と悲鳴が飛び交い、朝のホームルームは騒然となった。
教室を一回りして二回り目、突然「うお~!」と雅史の背後からタックルした者がいた。それを合図に、「うお~」と次々と男子が飛び掛かる。たちまち、小山のように盛り上がった。
上の者が下の者をポカスカ殴り「この、この~」と蹴りをいれた。
一人の男子が「このタコ野郎。タコ、タコ」と殴る奴を見た。『あれ~ヘンだな~』と違和感を覚えた。良く見ると、田中先生だ。
「ああ~!」と声をあげると、先生はスタスタと教壇の方へ行ってしまった。
『何だ、するとこのタコ殴りをされているのは誰だ?』
「待て待てー!」と、一人ずつ引き剥すと、タコ殴りされボロボロになった最初に先生にタックルした言い出しっぺの柴田が出てきた。
「違うって言ってんじゃねえかよ~。バカ野郎が~」
柴田は憤懣やるかたない様子だ。他の者たちは、自分たちのうかつさに呆然としていた。女子はそんな男子たちを冷ややかに見ていた。
「出席を取ります。秋元」
「はい」
「今井」
「・・・・・」
「今井」
今井はふて腐れて、そっぽを向いていた。皆の視線が注がれていると『ヒュー』とチョークが飛んで来て『カツン』と今井の額に命中した。
「上田」
「・・・・・」
「上田」
「はっ、はい」
「加藤」
次々と名前が呼び上げられ、返事が無い者には容赦なくチョークが飛んで来た。
出欠が女子に及ぶと、今井は返事をしなかった他3名にチョークを示し目配せした。
「井上」
「はい」
突然、4本のチョークが飛んで来た。雅史は出席簿でチョークを受け止めると、素早い動作で4本のチョークを間髪入れず飛ばした。
・・・・
「渡辺」
「はい」
「欠席なしだな」
「起立!」
組長の阿部綾が、良く通る声で号令をかけた。
「礼」
「今日も欠席なし。よろしい」
雅史は、何事も無かったように出ていった。
「あんたら、遊ばれてるよ」
「う~ん」
「朝のレクリエーションみたいだね。あの先生にとって」
「・・・・・」
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