第2話 五輪塔

 久慈くじ川のほとり、通称『五輪塔ごりんとう』地区。昔、石で出来た五輪の塔があった所らしい。現在は名前だけだが、そこは豊かな農作物の実りの場となり、那珂なか国の食糧を支える重要な田園地帯となっている。

久慈裏川の対岸は、敵対する南郷村連合国の、これも穀倉地帯だ。

那珂国と南郷村連合国の最前線が、久慈裏川だった。


 緑なす薫風の田園地帯の山側の一画に、小、中、高の統合校があり、練兵館があった。

5月10日、10時の槍剣術訓練の始まる前に、田中雅史、他5名の新入生が紹介された。

元A特務員、雅史は噂のタネになっていて、雅史の名が紹介されると「うおお~」とか「ほほう~」とか、異様などよめきが湧いた。


 新人の仕事は、料理補助、清掃業務、洗濯業務、外回りなど2人組で行われる。

雅史は小杉をいう男と、洗濯業務となった。実戦防具、練習防具、防着から普段着、帽子、下着まであり、午前中いっぱいかかる。終わらなければ、午後も継続となる。

 初日は一日かかって仕事をこなしたが、2日、3日と経るとムダが削がれ、だんだんと仕事が早くなってきた。

今日も今日とて、先ずは前日干した衣類を種別ごと種類ごとサイズごとに畳み、所定の棚に収める。次に衣類を洗濯機に放り込み、回している間に防具の補修、油を浸み込ませた布で磨く。終われば、洗濯、脱水を終えた衣類を取り出しておき。次の下着類の洗濯に取り掛かる。

 と、突然、小杉が「うお~!」と叫んだ。

     

「どうした?」


「スゴいだろ」

     

小杉は、赤い三角の布を広げていた。フチにひらひらの付いた、すけすけのすべすべの赤いパンティだった。

     

「スゴいな~」

     

「だろ」

     

ずいぶんとエロチックなパンティだ。誰が穿いていたのだろう。汗まみれの防着、道着の下にこんな生々しいものが・・・・・。背徳の匂いがする。

雅史は、知らずにドキドキしてきた。小杉はパンティを顔にあて「おお、かぐわしい」と存分に匂いを嗅ぐと、スッポッと頭に被った。

他にあった黒のパンティを雅史に放ると、自身は手のひらをひらひらと阿波踊りを始めた。踊りながら雅史の周りを回る。楽しそうだ。

雅史もパンティを被り、小杉の周りを回った。何だか知らないが「た、楽しい」二人はお互いの後を、輪になって踊った。

     

と、突然、ガラガラと引き戸が開いた。

     

「何やってるのですか」

     

入って来たのは、黒田曹長だった。黒田曹長は動きの止まった雅史と小杉を見、下着の山をジットリと見つめた。

やがて「いひひひ」と下卑びた笑みを浮かべると、ブラジャーを肩に掛けパンティを被ると阿波踊りに加わった。

三人はチャカチャカと輪になって、「いひひひ」「うふふふ」「あははは」と楽しそうに踊り始めた。


      

「何やってんですか。?・・・・ああ~!」

     

洗濯業務場に入って声をあげたのは、第二訓練生、宮原さおりだった。

     

「それ、私の・・・・やだ~、いやらしい!。ヘンタイ~」

     

「ええ~」

     

丸顔のやや幼さの残るぽっちゃり型の可愛らしい宮原さおりと、赤のいやらしい、黒の妖艶な、白のほとんどヒモフン状の物とが、うまくシンクロしない。ギャップがあり過ぎて戸惑っているうちに、さおりの悲鳴を聞きつけた女性陣がどやどやと入って来た。

     

「まあ~いやらしい」「やだ~へんたい~」「どスケベ~」「あれ私のよ、困るわ~恥ずかしい」「何で私たちのパンティを男が洗ってるのよ」「誰、横着してここに放り込んだのは」「あ~触らないで~」「責任者は誰なの~」

     

洗濯業務場は騒然となった。


      

3人のペナルティは、校庭10周。

3人が走り出してしばらくすると、校舎の窓に見物人が鈴なりとなり、盛んに指笛や歓声があがった。3人は歓声に応え、手を振っていた。


      

「人気者になっている。懲罰になってないじゃないか」

     

北部方面軍司令官、八木沢少佐は困惑していた。

『元A特務員3号、田中雅史をみっちりシゴいてくれ』と参謀長に言われたが、一向に堪えていないみたいだ。参謀長と、なぜか沙羅さまが視察にみえるというのに・・・・・。

     

「どうしたものかな・・・・」

     

「もっと難しい問題を与えたらどうでしょう」

     

傍らに居た副司令官、水野中尉が応じた。

     

「と、言うと?」

     

「一番難しいのは、対人関係です。どうでしょう、問題だらけの中三Cクラスの担任にしたら。生意気盛りで、先生の意見などへとも思わぬ粗暴な連中です。これは、手こずるんじゃないですか。見ものですよ~」

     

「さすが水野くん。いい考えだ。うん」



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