雅史が行く

森 三治郎

第1話 王女にセクハラ

 

 宮城の向こうの廊下から、国王と少し遅れて王女が歩いてくるのを沢木晴彦さわきはるひこ2号と田中雅史まさし3号が確認し、壁を背にして挙手の礼をした。

 国王が「うん」と頷き通り過ぎた瞬間、「キャー!」と悲鳴があがった。

「何事か?」と国王が振り向くと、戸惑う田中3号を睨み付ける王女、唖然とする沢木2号、わらわらと駆け付ける衛兵が目に入った。

 今にも襲い掛かろうとする衛兵を手で制し、国王は「何事か?」と王女を質した。


「こいつが、私のケツ・・・・・お尻を触ったのよ」


「何だと」


「いや、そんなつもりは無かったのですが・・・・・」

     

雅史は自分の手を見つめ、不思議がっている。

     

「ふざけんじゃねえ。自覚が無いのかよ、てめえ」

     

沙羅さら、言葉づかいは丁寧に」

     

「はい、お父さま」

     

言葉はしおらしいが、態度は尊大に雅史の前に仁王立ちになった。

     

「ええ、どうなんだよ」

     

雅史は、おずおずと右手を差し出した。何事かといぶかる衆人環視の中で、雅史の手は王女の胸に伸び乳房をむんずと掴んだ。『あっ!』と驚く周りをしりめに、手は乳房をもみしだく。

     

「何考えてんだ、テメー!」

     

『パシッ!』雅史の頬が鳴った。

     

『ハッ!』と驚く雅史、詰め寄る衛兵。その時、沢木が「お待ちください」と叫んだ。

     

「お前は?」

     

「はっ、那珂国情院、A特務員沢木2号です。こいつはA特務員田中3号です。3号は今、錯乱状態にあるようで、本意ではないようです。無意識の状態であるようです」

     

「ああ、分かった。聞いたことがある。夢想むそうけんの使い手が居るそうな。そいつが、こいつか。無意識で女のケツを触り、無意識で女のチチを揉む・・・・ってか。バカ言ってんじゃねえよ。心と身体がバラバラじゃ、剣士としての使い道がねえよ」

     

雅史は、ガックリと項垂うなだれてしまった。

     

「待ってください。我々は修練に修練を重ね、血の滲む修練を経て修士、錬士、達人となって行くのです。3号は、修士しゅうし錬士れんし達人たつじんをやすやすと飛び越えて、夢想剣士に到達した天才です。逸材です。国の宝です。今は、少し錯乱しただけなのです。

ご容赦を賜りたく、お願い申し上げます」

     

「けっ、心で身体を自在に操るんじゃなくて、身体が勝手に動くんじゃポンコツだよ。不良品だ。廃棄処分が相当かな」

     

王女の意見は、辛辣だった。

     

「君らのことは聞いている。ただ、目の前での無礼を見逃すことは出来ん。追って沙汰をする。衛兵、3号を拘束しろ」

     

国王は、威厳をもって命じた。

     

「はっ」




「あれで、良かったのかな」

     

「上出来です。迫真の演技ですよ」

     

宮城の参謀長室で、参謀長は「ははは」と笑った。

     

「でも私のケツに触り、チチを掴む何て知らなかったわ」

     

「事前に知っていたら、自然な演技は出来ないでしょう。やむをえません」

     

「それにしても、びっくりしたわ。イキナリだもん。それで、次は」

     

「A特務員の資格を剥奪し、実技実習性として最前線に飛ばされます」

     

「やり過ぎのような気もするけど」

     

「沙羅さま、人間は、特に男は試練が必要なのです。特に田中雅史3号は、槍剣術の天才だとは判るのですが、生活、性格がボ~とした感じで捉え所がない。見ての通り、睡眠暗示にも易々と引っ掛かってしまった。教授陣もA特務員にしたものの、扱いに困っているとのことです。

人間、ボ~と生きていては、いざという時役に立たない。修羅場を潜り抜けてこそ、一皮ける。一角のおとことなるのです」

     

「でも、危険でしょう」

     

「まっ、死なば、そこまでの男だということです」

    

 参謀長は冷たく言い放った。

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