書初める《短編フェス応募作》

亜夷舞モコ/えず

書初める(テーマ:スタート)

始めようとしてみる。書き始めようとしてみる。でも、始めようとしてみたときには、それはすでに始まっていて、始めることを始めることはできなくなってしまっていて、それはもう始められない。では、諦めることを始められるかと言えば、それも始められるわけではなくて、やめ始めることも、やめることを始めることもできず、ただやみくもに宙を掻くしかない。掻くことはできるらしい。書くことはできずとも。藻掻き、悩むことはできる。水でもないのに、溺れることはできるみたいだ。溺れるのに、『始める』はいらないから。それが起きる頃には、もう水の中に沈み始めている。始めるがないままに、終わっている。終わっているからこそ、文は生まれている。生まれ始めることもなく、生まれている。出来ている。書かれている。スタートのボタンを押すまでもなく、ひらがなとアルファベットの書かれたボタンを触るだけ。生まれていた文字を並べるだけ。あとは簡単に紡ぐだけ。紡がれ始める時を待たず、紡がれていくだけの文字――

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書初める《短編フェス応募作》 亜夷舞モコ/えず @ezu_yoryo

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