第4話

 い、意識しろと言われても、出来る訳ないじゃん。

 こんな、抱き着かれているような体勢でなんて……。


「集中」


「…………はい」


 しかも先生、わざとなのか私の耳元で話すからくすぐったい。


「おい」


「わ、わかりましたよ!」


 怒気の含まれている声、怒ってる!!


 顔は見えないけど、これ以上怒らせてはいけないと脳が勝手に判断。

 もう、どうにでもなれ!!!


 目を閉じ、体に巡っているオーラを意識してみる。

 でも、やっぱり何も感じ――――あ、あれ?


 体の外側、何かが流れてる。

 先生が掴んでいる両手から冷たい何かが流れ、指先が冷たくなるような感覚が……。


「――――氷魔法、氷の銃ゲヴェーア・アイス


 耳元で聞こえてきたのは、先生の甘い囁くような声。

 星空に上げられた私の指先に魔力が集まる。

 目を開けてみると、氷の礫が生成されていた。


「行け」


 ――――パンッ!!


 先生の言葉に合わせ、氷の礫は上空に放たれる。

 真っすぐ星空へと放たれた礫は、ワイバーンに直撃。私達の方へと落ちてきた。



 ――――ドンッ



 っ、風が!!


「んじゃ、とどめはおめぇがさせ」


「え、だ、だから私には――――っ!」


 私が”無理”だと言おうとすると、唇を人差し指で押さえられ口を塞がれた。


 またしても先生は、私の視界を深緑色で覆いつくす。


「無理じゃねぇよ。今の感覚、巡り。それを意識するだけでいい。同じことをすればいいだけだ、難しく考えんな」


 強い、先生の瞳。

 私なら出来ると、本気で思っている。そんな、瞳だ。


 …………もう、ここまで言われたらやるしかないじゃん! この馬鹿!!


 目の前に落ちてきたワイバーンは、起き上がろうと震える体を動かしている。


 早くどうにかしないと、またすぐに飛んじゃう!!


 ――――すぅ~、はぁ~。


 息を一定にし、体に纏っているオーラに集中。

 両手を前に出し、さっき出した氷魔法をイメージ。


 イ、イメージ、する。



 ……………………出来ない。



 両手が冷たくならないし、流れているオーラを感じ取る事も出来ない。


 指先も冷たくならないし。

 どうしよう、やっぱり、出来ないのかな。


 諦め、腕を下ろそうとした時、その手は後ろから伸ばされた手によって止められる。


「諦めてんじゃねぇぞ、リヒト。魔法を放つ時に大事なのはイメージ。さっきの感覚を思い出しやがれ」


「っ!」


 後ろを振り向こうとすると、すぐ傍に先生の顔があった。

 深緑色の瞳には、ワイバーンが映し出されてる。


「おめぇが今出来ねぇのは、出来ないというイメージが頭に残っているからだ。だから、できねぇ。だが、お前は今、ワイバーンを打ち落とした。出来ないわけじゃねぇんだよ」


「で、でもこれは、私じゃなくて先生が…………」


「俺は魔力を貸しただけだ。他はお前が無意識のうちにやっていた。俺がやろうとしたが、勝手に操作されてビビったわ」


 八重歯を見せ笑っているけど、そんな事あるわけが……。


「まぁ、そんなのどうでもいい。お前はさっき、自分で魔法を出すことは出来た。だから、出来る。おめぇは、魔法を出せるんだよ。あと足りないのは”自分は出来るというイメージ”だけ。出来ると、自分を言い聞かせろ」


 出来る? 私がさっき、無意識のうちに魔法を出して、ワイバーンを撃ち落とした?


 そんな事、あるわけがない。

 でも、先生がそんなことを言っている。本当かもしれない。


 私も、魔法を使える?

 私も、魔法を出せる?


 劣等生である私でも、ワイバーンを倒せるの?


「――――――――わかりました」


 ────やってやる。

 イメージ、一番大事なのは、私は出来るという、イメージだ!!


「すぅ~、はぁ~」


 再度目を閉じ集中してみると、またしても感じてきた、両手に流れるオーラ魔力


 これを指先に流し、先ほどと同じ氷の礫をイメージ。


 目を開けてみると、さっきよりは小さい氷の礫が作り出されていた。


「出来た、けど…………」


「あぁ、そんなんじゃ、ワイバーンの皮膚は崩せない」


 なら、もっと大きくしないと。

 それもイメージすれば出来るはず。


 集中力を切らさずイメージをし続けると、氷の礫は徐々に大きくなる。


 今では、もうバスケットボールくらいの大きさになってきた。


「これなら」


「もっとだ、足りない」


 え、これ以上に?

 もっと、もっと大きくイメージ……。


「やっぱり、おめぇはルーチェ家の血が流れている大魔法士の卵だ。おもしれぇなぁ」


 目を閉じ集中していると、何故かそんなことを言われた。

 よくわからないけど、もう放ってもいいって事なのかな。


 すぅっと目を開けてみると氷の礫はもう、ワイバーンと同じくらいの大きさにまで大きくなっていた。

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