ツンデレちゃんが素直になるまで攻め倒してみた

マノイ

本編

 ツンデレ。


 あまりにも一般的に浸透し過ぎたオタク用語であるソレは、本来は元々態度がキツい女性が恋仲になるとデレデレする様子を指すものだったらしい。

 だが俺は照れ隠しでツンツンする後発的な意味の方が大好きだ。


 だって可愛いじゃん。


「いや、ねーって。リアルツンデレなんてうざいだけじゃん」

「そうか?」

「そうそう、誰がこのんで罵倒されなきゃならねーんだよ」

「照れ隠しで素直になれないところが可愛いじゃん」

「そこは普通に照れてくれれば良いだろ。いくら好意の裏返しって言っても限度があるわ」

「普通に照れるより破壊力強いっしょ」

「俺には分からん。このドМが」


 そうかなぁ、むしろドSだと思うんだが。


 俺と感性が全く合わないこの男は高校で出会ったクラスメイト兼友人の星野ほしの

 合わないからこそ同じ女性を取り合うなんてことも無いため、こうして昼休みに教室で駄弁るくらいには案外うまくやれている。


「んで、松坂まつざかさんとは上手くいってるのか?」

「上々ってとこかな」

「そりゃ良かった」


 松坂さんは俺が思いを寄せる他のクラスの女の子。

 公園で泣いている男の子をあやしている優し気な姿に惚れて絶賛アタック中。

 なお、その時の姿を俺に見られたのが余程恥ずかしかったのか、ツンツンされてしまっている。


「おっと、話題にすればなんとやら、ってやつだ。ちょっと言ってくる」

「おう、頑張ってら」


 松坂さんが大量のノートを手に廊下を歩いていたので、星野との会話を打ち切り彼女の元へ向かった。


「やあ、松坂さん」

「ゲッ、三重松みえまつ


 ゲッとは酷い言われようだ。


「重そうだね、少し持とうか?」

「あんたには関係ない」

「そんなこと言わずに」

「余計なことしないで!」


 もちろんするぞ。

 好きな子が大変そうに重い物を持っていたら何と言われようが助けるのが当然だ。


「はぁ……あんた馬鹿なの?そんなことしたって何も変わらないわよ」

「そっか、それは残念。じゃあもっと好きになってもらえるようにもっと頑張るよ」

「~~~~っ!バ、バッカじゃないの!?」


 俺はすでに松坂さんに告白している。

 結果は玉砕だったが、脈はありそうだったのでアプローチを続けた。


 割と色々と無茶したこともあり、既に彼女の心を射止めているという自信はある。

 出会って最初の頃はこうして近づくだけで拒絶されていたのに、今はもう並んで歩いていても文句を言われないどころかツインテールを揺らしながら露骨に頬を染めてくれるからね。

 でもだからといってまた告白しても、彼女はきっと照れて断ってしまうだろう。


 だから俺は作戦を立てた。


「あんたが何をしようと好きになんてならないんだからね!」

「俺は松坂さんのことが毎日好きになってるけどね」

「~~~~っ!」


 とにかく押して押して押して押しまくる。

 そして松坂さんが素直になるのを待とうと思う。


 もちろん彼女が本気で嫌がることなんかしないぞ。

 その辺の匙加減はこれまでの触れ合いで身に着けている。


「どうしてあたしなんかを……」


 松坂さんはそう小声で呟いた。

 俺には聞こえていないと思ったのだろうがばっちり聞こえてるぞ。


 もちろん全力で答えを返す。


「可愛くて頑張り屋で健気で他人に優しくて特に子供相手だと慈愛に満ちた聖女のような素敵な女性だから」

「なっ……!」


 空回りして少しポンコツっちゃうところも好きなんだけれど、その点は本人が結構気にしているみたいだから敢えて言わない。


「よ、良くそんな恥ずかしいこと言えるわね!」

「本気で好きだから」

「~~~~っ!」


 そして照れる松坂さんが滅茶苦茶可愛いから。


 彼女は顔を真っ赤にして、これ以上何も言わずに静かに廊下を歩いている。

 その姿があまりにも愛おしいけれど、俺の両手はノートで塞がって思わず抱き締めるなんてことは出来ないのであった、なんてね。


 そしてノートを職員室まで届け、教室まで戻る途中のこと。

 これまで黙っていた松坂さんがようやく口を開いた。


「その…………ありがと」


 俺が松坂さんのことを好きな理由の一つがこれだ。

 彼女は確かにツンツンしているけれど、とても良い子なんだ。


 『助けてなんて言ってない!』と本気で言われたのはクラスで孤立していたところを助けようとした時くらいだ。

 あの時は俺が巻き込まれないようにと気を使ってくれたんだよな。

 あれで余計好きになったんだ。


 松坂さんは照れながらもお礼をしっかりと言ってくれるし、罵倒したり拒絶したりはするけれど『キモい』や『死ね』と言った酷い言葉は使わない。


 そういった彼女の良いところを知れば知る程に好きになるのは当然のことだろう。


 さて、せっかく会えたことだから、いつもの・・・・お誘いをやろうかな。


「ときに松坂さん、今週末の休日、予定空いてる?」

「なんであんたにそんなこと言わなきゃならないのよ」

「デートしたいです」

「~~~~っ!するわけないじゃない!」


 ここまでテンプレ。

 彼女と仲良くなってから何度も繰り返したやりとりだから結果は分かっている。


「もし良かったら十時に駅前のいつもの場所集合で」

「話を聞け!行かないって言ってるでしょ!」


 ちなみに、松坂さんに用事がある時はローテンションの返事になるんだけど、その明らかに落ち込んでいる姿がまた可愛いのなんのって。


「それじゃあ週末よろしくね」

「絶対行かないから!」




「勘違いしないでよね。あんたがかわいそうだと思ったから仕方なく来てあげたのよ」

「嬉しい! ありがとう! 俺のためにそんなに可愛い格好で来てくれたんだね!」

「うっ……あっ……」


 はい今日最初の赤面いただきました。

 おいしいです。


 ちなみに照れて混乱している時に手を差し出すと素敵なことが起きます。


「さぁ行こうぜ」

「え、うん………………あ」


 素直につないでくれるんだな、これが。

 そしてもちろんこうなる。


「こ、これは違うの!!別にあなたが好きだからやったわけじゃないし!!……っ……いまの忘れて!!!」

「一生忘れない」

「忘れてって言ってるでしょ!」

「大好きな女の子が手をつないでくれたんだもん。絶対に忘れないよ」

「~~~~っ!」


 これ絶対惚れてるよね。

 知ってるけど。


 さて、ここからは少しだけ押しを弱めてデートを進めるぞ。

 松坂さんも楽しめなきゃデートする意味無いからね。

 メリハリが重要なのですよ。

 後は終わり際にまた一押しして印象を与えるくらいで十分だ。


 と思っていたのだけれど、この日のデートはちょっとした予想外の出来事により俺と彼女の関係を大きく変えるものとなった。


 それは俺がトイレに寄った後のこと。

 近くで一人待っていた松坂さんが二人の男に絡まれていた。


 松坂さんは俺の好きな人ビジョンという贔屓目を排除しても可愛いし、しかも今日はデート用に気合を入れて着飾ってくれている。

 そりゃあ不埒な輩も寄って来るか。

 トイレとはいえ一人にしてしまった俺のミスだな。


「松坂さんどうしたの」

「あぁ、なんだてめぇ」

「今俺達が話してんだろうが、邪魔だ」


 おいおい、他の男を威嚇するような奴が女に好かれるわけ無いだろうが。

 それともこいつら気弱な女子を狙って強引に連れて行こうとするタイプのやつらか。


「あ……あの……あたしっ……」


 普段はツンツンしている松坂さんも、人見知りの傾向があるため初対面の相手には堂々と接することが出来ないのだ。

 彼らのようなクズ男達にとっては格好のエサというわけだ。


「俺の知り合いなんで」

「マジかよ。こんなガキ臭い奴なんて忘れて俺らと遊ぼうぜ」

「そうそう、絶対そっちの方が楽しいからさ」


 なるほど、こういうタイプの輩は軽くいなそうとしてもダメなのか。

 しかも徐々に壁際に追いつめて逃げにくくしてきやがる。


 全く、折角のデートなのに水を差しやがって。

 ならはっきりと言ってやるよ。




「俺の女に手を出すな」




 松坂さんの盾となり、一歩も引かず、全力で男達を睨みつける。

 彼女がこんな奴らの視界に入ることすらおぞましい。

 そして彼女の恐怖が少しでも和らげられるようにと視界を塞いであげる。


「ちっ」


 やがて男達は諦めて俺達から離れていった。

 完全に姿が見えなくなったのを確認してから、俺は警戒を解いて後ろを振り返った。


「だいじょう……」


 てっきり怖がっているのかと思った。

 一人にしてごめんと言おうと思った。


「~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」


 まさかこれまで見たことが無いくらいに真っ赤になっているとは。


「あ、あり、ありがっ……とう……」


 流石に目がハートマークになっているのではと幻想するほどに照れられると、こっちも照れてしまう。


「ど、どういたしまして……」

「…………」


 きまずい。

 いつもは俺が追撃するか松坂さんがツンツンするかなのに、どっちも照れたままなので状況が動かない。

 甘酸っぱくて幸せだけど、むずむずする。


 今告白すれば成功しそうな気はするが、ナンパ男に絡まれた直後に街中でっていうのはムード的にどうなんだろうか。

 などと迷っていたら先に復帰したのは松坂さんの方だった。


「た、助けてくれたことに感謝しただけであって、あんたのことが好きって訳じゃないからね。勘違いしないでよね!」


 あ~残念。

 このモードになったら告白は無理だ。

 それじゃ俺も冷静になるかな。


「俺は大好きだよ」

「う……あう……あんたはいつもっ……!」

「本気だから」

「~~~~っ!」


 これでさっきの怖い経験が少しでも和らいでくれたかな。

 告白も大事だけど、彼女が笑顔でいてくれる方がもっと大事だ。


 だからいつも通りに攻めたんだけど、どうやら攻めすぎてしまったようだ。


「全部っ、全部全部全部全部あんたのせいなんだからね!」

「え?」

「来て!」


 何が俺のせいなのか良く分からないまま、松坂さんに服を引っ張られた。

 行先は俺達が初めて会った公園だった。

 外が暑いからか、今日は子供達が遊ぶ姿を全く見かけずひっそりとしていた。


 彼女はそのまま俺を人目に付きにくい木陰まで引っ張り、木の幹に俺の体を押し付けた。


「なぁ、一体何む!?」


 松坂さんが背伸びをしたかと思ったら、唇に柔らかな感触が伝わった。

 それが消えて無くなると、彼女は俺の胸に顔を埋めた。


「こんなに好きになっちゃったのあんたのせいなんだからね! 責任取りなさいよ!」

「取るよ」


 もちろん即答だ。

 突然のことに動揺はしていたけれど、これまで松坂さんに想いを伝え続けていた経験が生きていたらしく自然と言葉が出た。


「~~~~っ!あんたがいつもそうやって私にっ……!」

「一生大事にする」

「バカ、バカバカバカ! そういうことを軽々しく言うなぁ!」

「好きなんだからしょうがないだろ」

「~~~~っ!」


 ポカポカと力なく俺を叩く彼女が愛おしい。

 好きだと言ってくれる彼女が愛おしい。

 ようやく素直になってくれた彼女が愛おしい。


 だからそっと優しく彼女の体を抱いた。


「あたし、面倒くさい女だよ」

「知ってる、でもそこが可愛い」


 面倒くさいだなんて思わないけどね。


「あたし、つい本心じゃないこと言っちゃうよ」

「知ってる、でもそこが可愛い」


 割と分かりやすいけどね。


「あたし、多分重い女になるよ」

「知ってる、でもそこが可愛い」


 今まで孤独だったんだ、存分に依存してくれ。

 絶対に幸せにしてみせるから。


「松坂さん、好きだ。俺の彼女になってくれないか」


 あの時断られた告白をもう一度。


「はい」


 その答えはあの時とは違い、今度は俺から優しく彼女にキスをした。


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